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今年で入社4年目。営業は嫌だから事務仕事。別段やりがいも無く、その分責任も無い。たまに来る本社の人がさわやかイケメンで、斜め向かいの席のお局には若干目をつけられている気がする。
私がいてもいなくても良いこの環境は、時に居心地がよく、時に虚しさを感じさせる。
何で生きなきゃいけないんだろう。
死ぬ理由がないから。それが今の私に一番しっくりくる理由である。幼少期に抱いていた生に対するお日様のようなイメージは段々と陰り、死に対する無条件の恐怖は着々と手懐けられている。二十歳の頃から眼鏡を掛けるようになった。視界がぼやけてきたから、世界が色褪せた様に感じるのかもしれない。
人間ドックで父のがんが見つかった。幸い早期発見で、命に問題はないという。うちはがん家系で祖父は肺がんで亡くなっており、母も一昨年に乳がんと判明したが早期発見で事なきを得ている。両親は祖父の代から続く小さな酒屋を営んでいる。今では母に桃をせびる程ピンピンしている父であるが、今回の件で真面目で働き者と評判の従業員に店を譲る考えでいるらしい。
『そろそろ帰ってきたら?』
母からのLINE。上京に別段の理由はない。田舎の凝り固まった価値観の押し付けは苦手だし、漠然とした都会への憧れという安易な考えで出てきただけなのだ。東京の暮らしはとにかく便利だ。だけれど両親に心配をかけてまで残りたいと思う程の仕事も、恋人も、私は持ち合わせていなかった。
結局私は田舎へ帰ることにした。
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