出:見せたいもの

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出:見せたいもの

 2人で並んで駅までの道を行く。手には向かいのカフェのコーヒーがある。私が化粧室に行っている間に宮野さんが買ってきてくれたのだ。いつもよりワンサイズ小さい、駅に着くまでに飲み干せるようにとの配慮だろう。何故こんなに気を回せるのか。人生3周目くらいなんだろう。  もう3月も半ばになろうとしていて、夜の寒さも和らいでいた。私たちの間の空気も、いつの間にか元通りになっていた。 「お酒、あんまり飲まれるイメージありませんでした」 「本当? 結構飲むよ、俺。あ、でも会社の皆にはオフィスで飲んでたの内緒で……」  あわあわする姿が可愛らしくて、思わず笑ってしまった。 「言いませんよ。でもどうせ飲むなら、宮野さんにはお洒落なバーとかの方が似合う気がします」 「……バーなんて、滅多に行かないな。そんな洒落た人間じゃないよ、俺は」  少し顔が曇ったように見えたのは気のせいだろうか。そうこうしていると駅に着いた。宮野さんは同じ路線で、私より2つ先の駅だった。車内は思いの外混み合っていて、必然的に宮野さんとの距離も近くなる。汗はかいていないだろうか、心臓の音が伝わりませんようにと願った。宮野さんが声を落として話し始めた。
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