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そしてついに宮野さんの自宅に着いた。緊張でカチコチだった。心なしか宮野さんも表情が固いように見えて、少し安心した。
コーヒーとお茶どちらが良いか聞かれ、私はお茶をお願いした。リビングのソファーに通され腰掛ける。白や黒を基調にした清潔感のある男性の部屋だった。目の前のローテーブルには綺麗に並べられたリモコンと使い古された長方形の缶の箱があった。
宮野さんが2人分のお茶を入れて持ってきてくれた。緊張からか喉が渇く。そしてまたこれも緊張からか、味がよく分からない。
ふと伸ばした足に何か当たる。テーブルの下に茶色い封筒があった。それをみた宮野さんが立ち上がる。
「あー!!! 朝から何か忘れてる気がしてたんだ。それ今日中に出さなきゃいけないやつ! 見つけてくれてありがとう。ごめんね、急いで出してきても良い?」
「もちろん、いってらっしゃい」
バタバタと宮野さんが出て行く。静まり返る部屋に1人。
いってらっしゃい
自然と口をついたが、どんどん恥ずかしくなってきた。彼が帰ってきたら、今度はおかえりなさいと言えば良いのだろうか?
「何馬鹿なことっ!」
恥ずかしさで飛び上がった拍子にテーブルの上の缶が落ちてしまい、中身が散らばってしまった。やってしまった!戻ってくる前に直さないと……
そうして手を伸ばし、今散らばったものが何なのかを頭で認識した瞬間、心臓が激しく脈打った。
それはタイムカードだった
何枚も何十枚も…… 日付は何年も前から付けられている。古い日付のものは最早ボロボロで、一度破ったものをセロハンテープで貼り付けているカードもあった。名前の欄には宮野爽真と書かれている。
何だこれは
古い日付の出勤欄は月に4,5日しか記入されていなかった。少ないものだと1日。数字も殴り書きと言って良いものだった。
何なんだ、これは
それが、ここ半年近くから出勤欄の記入が劇増していた。そして月の終わり頃に1つ、赤丸が付けられていた。毎月月末ごろに発生する隣町の女性失踪事件……
『俺もあるもん。月一のご褒美。それを生きがいにしてる』
やめろやめろやめろ。何で今そんなことを考えるんだ。そして、いつかの夜に見たニュースを思い出す…… 親の介護のために田舎へ引っ越す予定だった女性。会社を辞め、引っ越すまでの間に起こった事件だったため発覚が遅れてしまった。
今思えば、意見交換とは名ばかりのお茶会というのは、余りにも都合が良すぎるのではないか? 私が辞めることが決まってから話しかけてきたのは何故? 曖昧な口実、お近づきになりたい、その真意とは何だ? 冷や汗が出て、耳鳴りがする。
『バーで知り合った男がしつこくて困っている』
お洒落なバーが似合うと褒めた時、気のせいだと思って見逃した…… あの時確かに、彼の表情は曇っていたのではないか?
コーヒーが合わないんじゃない
彼がくれるコーヒーが合わないのだとしたら?
吐き気がして、頭がクラクラした。気がつくと、手元には今月のタイムカードがあった。神様どうかお願いします…… 願いは届かなかった。くっきりと、赤い丸が、26日を囲んでいた。
逃げないと
そう思って立ち上がると、背後から声がした。
「加賀さん……」
貴方には名前で呼んでほしかった……
私の意識は
そこで途切れた
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