出:くしゃっとした笑顔

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   彼が言うには、新部署の立ち上げに関する意見を募っているのだそうだ。 「立ち上げるのは良いけど、ほら、うちの社長少し考え方が古いじゃないですか。新部署のメンバーも古風な方々ばかりで、スタート前からヒヤヒヤしてるんですよ」  企業の公式SNSアカウントが問題発言をしてしまうというのは今の時代ならではの失態だろう。その拡散力たるや。そこで若い目線から予め「アウトなライン」というのを提示しておきたいということらしい。 「お力になりたいのは山々ですが、私は去っていく人間ですし……」 「そこは問題ないです! むしろ気兼ねなく問題点を指摘できるんじゃないかと。でも今は引き継ぎとかもあって大変ですよね。だから、ちゃんとした会議の場に参加してほしいってわけじゃなくて、お互いの時間が合う時に軽くお話し聞けたら良いなあ、なんて」  引継ぎは順調に進みすぎて最早ほぼ完了していると言ってもいい。そして、私から引き継いだ仕事に慣れるのに他の若い世代はてんやわんやの真っ最中だ。つまり、若者の中で唯一暇なのがこの私なのだ。おじ様方との会議も、書類の作成も必要ない、ただ時たま現れるイケメンと話をすればいい。……断る理由がなかった。 「私で良ければ……」 「加賀さんが良いんです! 恩に着ます!」  あ、笑うと顔がくしゃっとなるタイプの人だ。好きだなあ。いやいや、好みの話であって、彼個人の話ではない。もうすぐ会わなくなるんだから。そんな脳内一人ツッコミを繰り広げていたのを覚えている。  この時に断っていればよかったんだ。
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