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出:失踪事件
宮野さんとの打ち合わせと称したお茶会は、正直とても楽しかった。仕事の合間に軽く会議の進捗を伝えてもらうだけの日もあれば、昼休憩に話がてらランチをご一緒する日もあった。初めのうちはお互い真面目に意見を出し合っていたが、回数を重ねるうちにネタが切れたのか、徐々に脱線が増えていった。
「え、加賀さんってS町に住んでるんだ! 俺N町だから隣だね」
話し方が大分フランクになったなあ。まあ歳は向こうが3つ上だし文句はない。敬語がデフォルトの男性って紳士的で好きだけれど、これはこれで距離が縮まった感じがして悪い気はしないな。毎度向かいのカフェのコーヒーを買ってきてくれるのもポイントが高い。あそこ人気で結構並ぶのに。
「あれ、宮野さんって埼玉にお住まいだって聞いた気がしたけど、勘違いでしたかね」
「そうなんだけど、引っ越したの。もう4ヶ月くらいになるかな。」
隣町に4ヶ月…… 自然と失踪事件の事を思い浮かべた。事件は相変わらず解決していなかった。失踪者は先週また1人発覚し合計で4人、全員が女性だ。明確な失踪日はわからないが、おそらく毎月の月末頃に1人ずつ失踪している。
そのうちの1人が友人に「バーで知り合った男がしつこくて困っている」と相談していたという。しかし失踪女性の異性交遊が広く、警察は男の特定に難航しているようだ。
「どうしたの?」
「へっ!?」
急に顔を覗き込むものだから飛び上がってしまった。別にここで事件の話題を出すのは変な流れではなかったが、楽しい雰囲気を壊したくなかったので飲み込むことにした。
「いえ、別に何も。話し合いの場でぼーっとしてしまって、すみません」
「いえいえ! こっちこそ。疲れてるのかな? 引越しの準備とかもあって大変だもんね。話も大分脱線しちゃったし、この辺にしておこうか。今日も有り難うございました」
なんて事だ。場を暗くしないための誤魔化しが、かえってこの場をお開きにさせてしまった。まだ話したいと駄々をこねるのは可愛げがあるのか、みっともないのか。人によりけり…… 宮野さんにとって、今の私はどちらに分類されるのだろう。お近づきになりたいという言葉は本心なのだろうか。
「そうですね、宮野さんもお忙しいでしょうし。こちらこそ、お時間を作って頂いて有り難うございました。コーヒーも美味しかったです」
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