退:苦しみぬいて死ねばいいのに

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 私の選択は正しかった。急に呼び出された会議室へ入ると、不機嫌そうな顔の部長と気まずそうに目を合わさない上司がいた。  どうやら大事な会議で使われる資料にミスがあったという。当初それは私に割り当てられた仕事であったが「引き継ぎ業務もあるし、やっておいてあげるよ」と、他でもないそこでソワソワしている上司の佐々木さんが申し出たのだ。  しかし2人の話を聞く限り、そんなやり取りは影も形もなく、資料作成は私が受けた仕事であり、もちろんミスは私がやった事になっていた。 「辞めるからって適当にやられちゃ困るよ」 「部長、本当に申し訳ございませんでした。彼女を信頼してのことでしたが、引き継ぎ業務に随分気を取られていたようで。私の采配ミスでもあります。加賀には私からも改めて話をしますので……」 「くれぐれも頼むよ。やり直しは彼女にやらせなさい。最終チェックは佐々木くんが責任を持ってやるように」  呼び出したのはミスが起こった経緯の確認などではなく、終始私への断罪であった。もちろん反論したかった。しかし口頭でのやり取りで、担当が変わった証拠など何もなかった。どうせ辞めるからといって言いたいことを言える人間ではないことを、私が一番理解していた。 「何か言う事があるだろう」 「………大変申し訳ございませんでした」  苦しみぬいて死ねばいいのに  頭を下げながら願った。
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