ホクロリグレット

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横をすり抜けて歩き出す伊予を追う。 「 誰もいねぇし」 「 廊下だよ?!誰が来てもおかしくないでしょうが!」 「 だって、ホクロ見ちまうと......」 「 またそれかよ!このホクロフェチ!!」 「 なぁ、それコンシーラーで隠せねぇの?」 「 はあ?」 賢人は伊予の肩を抱いて、顔をのぞき込んだ。 「 他の誰かに見られんの嫌なんだもん。俺のホクロ」 「 私のホクロだよ」 隙を見てペロンと舐めれば、伊予が飛び退く。 口元を押え、頬を染めて目を瞬いた。 「 信じらんない......!」 「 全開で付き合う提案をしたのは伊予だろ」 「 にしても、人が違いすぎる」 「 駄目?嫌なの?こんな俺」 伊予は黙り込むと、俯きながらボソボソと言う。 「 ただのホクロフェチじゃないかと疑ってる。他にもっと良いホクロを見つけたら、さっさと乗り換えられるんじゃないかと......」 「 何それ!そんなわけないじゃん、そんな事気にしてんの?可愛い、伊予!」 「 言っとくけど、私も相当めんどくさいから。自信ないし疑り深いし。はあ、もう......だいたい良いホクロってなんなの?自分で言ってて呆れる」 賢人は伊予の頭を引き寄せ髪に頬ずりをすると、甘く囁いた。 「 だからぁ、伊予以外のホクロには興味がないっていってるのに」 そう、もし、伊予にホクロが無かったなら、眉毛でも耳朶でも、小指でも、その代わりになっていただろう。 愛する対象の一部に執着するのは、愛が重すぎる故に生み出された性癖にほかならない。 フェチなんて表向き。全開なんて嘘っぱち。 本当は全部囲って閉じ込めて拘束したいんだぜ? でも、言わない。 その狂人めいた本性は隠し通す。 俺だって学んだのだ。 なんたって俺は昇進を約束された優秀な営業マンだ。仕事で培ったノウハウを駆使し、いかに俺が良い男で伊予を幸せにする男かを、それは見事にプレゼンしてみせよう。 余所見をする隙も与えず絡め取り、遂には一生のお供に選ばせてみせる。 賢人は伊予の口元を見てほくそ笑む。 だから、そのホクロは死ぬまで俺のもの。 逃がしません。 ホクロリグレット[完]
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