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伊予が顔を覆って呟いた。賢人は使用済みのゴムを屑入れに入れると、伊予の隣に身体をねじ込んだ。ブラウスを羽織ったままの上半身を抱き寄せ、熱く囁く。
「 俺はまだ足りないけど」
「 お風呂にも入ってないのに」
「 たまにこういうのも良いだろ?」
「 たまに距離を置いてみるのも良いかもね」
「 それは、寂しいからヤダ。……なあ、泊まって良い?」
「 私物は全部返しちゃったわよ。ズボンのお尻汚れたまんまだし、どうすんの?」
「 なら、朝帰る」
根負けした伊予のブラウスを脱がし、賢人もシャツを脱ぐ。余すことなく触れ合う肌は気持ち良く、僅かも離れたくないと思った。
賢人はその夜、幾度となく伊予の名前を呼び、口元に口付けた。
誰かを独占するという幸せ。全身を傾ける心地よさ。
何年ぶりかに自分に許したその快楽に、ただただ酩酊した。
ฅ•ω•ฅ
翌日出社してすぐに、賢人は伊予との交際を発表した。驚きどよめく同僚達の前で、得意げに伊予の肩を抱き寄せる。
「 ということで、晴れて、丸岡伊予は俺のものになりました。今後は誰も手を出さないように」
「 ……余計な心配だと思うよ」
隣りで伊予が呟く。
「 二人っきりで話すことも禁じます。食事や飲み会に誘う時は俺を通して下さい」
同僚らは呆れた表情を浮かべて、賢人を見た。
「 鏑木ってそんなんだっけ」
「 結構スカしてたよな。俺は誰にも縛られたくないんだとか言っちゃってたよなぁ」
「 これからは伊予一筋なんで!ヨロシク!」
更に伊予を引き寄せ、親指を立てて突き出した。
「 やだ、イターイ」
「 勝手にやってろって話なんだけど」
「 暑苦しくて愛想が尽きたら遠慮なく言えよ、丸岡」
「 はい、触らなーい」
賢人は、手を伸ばした同僚の手を叩き落とし、肩を入れてガードする。
「 マジやり過ぎ」
「 牽制しとかねぇと安心できねぇもん」
「 まあ、社内では程々にしろよ」
苦笑しながら同僚らが去っていく。その背中を賢人越しに見送りながら、伊予が口を尖らした。
「 本当にやり過ぎだよ。社内恋愛をよく思ってない人は結構いるんだから、それこそ仕事に支障が出るかもよ」
「 は?何も言わせねぇし」
「 そこで男気発揮しちゃうの」
笑う伊予に顔を寄せれば、ぎょっとして身体を引かれた。
「 馬鹿じゃないの?職場だよ?!」
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