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「男臭いってなに?何言ってるか分からないけど臭くないよ~?」
「ああ、うん。そっか、ありがとう」
若干の違和感を抱きつつも返事をして席に着いた。が、その違和感が頭から離れない。単語として「男臭い」を知らないなんてことあるか?恵子は成績こそ良くはないが馬鹿ではない。今まで会話でこんな違和感を抱いたことなんてないのに。恐る恐る、メイクを直している恵子を盗み見る。いつもと変わった様子はない。いつもの恵子だ。
「何~?今日なんか変じゃない?どうしたん本当に。和希も新しいアイシャドウ試す?」
「いや別に変じゃ……へ?試すって僕が?」
「さっき健人も試してたけど似合ってたよ~」
「そうじゃないそうじゃない、え、男が化粧?」
「え……本当にどうしちゃったの?すればいいじゃん和希も」
何に怖くなったのか僕は席を立って廊下に飛び出した。ちらりと見えたうさぎのしっぽを追いかけて走る、走る。待て、待ってくれ、何を盗んだのか教えてくれ。いや、薄々気づいてはいる。だけどこの違和感にイエスと答えが欲しくて僕はうさぎを追いかけた。
すっかり見失った先で壁に手を付いて息を整える。顔を上げるとそこは廊下の端にあるトイレだった。それもひとつだけ、赤も青もない黒い人型マークのトイレだけ。そうだ、あのうさぎは「性別」という概念を盗んで行ったんだ。
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