うさぎどろぼう

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 なんだ?やけにお腹が温かいな。  寝起きの頭で生暖かいお腹の上を確認すれば、そこにいたのは一羽の白いうさぎだった。 「え?」  思わず掠れた声が出た。  お腹の上で平和にとくとくと鳴る小さな心音が、この事態の異常さとの間に溝を作っていく。どうするべきか、息を飲んで僕は考えた。そうしてしばらく考えたのちに導き出した結果がこれ。僕はカーテンの隙間から射し込む朝日に目を細めながらうさぎを抱きかかえた。とん、とん、とゆっくり撫でれば、もぞもぞと動いた後にお腹の上で静かに収まるうさぎ。頭ではこの状況を理解できないままに、手だけはうさぎを撫で続けていた。止まらない心音が不思議と僕に安心を与えてくれる。さて、これからどうしようか。  動揺を誰にでもなく自分に隠しながら、ゆっくりとうさぎを退かして、布団に隠した。 「ちょっとここでまっててください」  何故か敬語になってしまう語尾に若干笑いつつ、こんもりと盛り上がった布団を残してリビングへ降りた。 「おはよう和希、今日は遅かったわね」 「ん~ああ、まあちょっと」  いつもの挨拶を濁して座る椅子は少しヒンヤリとしていて、さっきまで抱えていた温もりとの差に身体が硬直して、弛緩する。布団に包んだうさぎのことを考えつつ口にする朝食はなんとなく味が薄く感じて、いつもより多めに醤油を使って誤魔化しておいた。
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