第一夜

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第一夜

ーー第二次世界大戦後、オレは全てを失う。 一九四五年八月十四日、壊れかけのラジオから日本が降伏したと、繰り返し流れていた。 ザラザラと音波の悪いラジオだったけど、日本が負けた。と、だけはハッキリと聞こえた。 近所の連中もラジオを聴いていたのか、慌ただしく「日本が戦争で負けたぞ!」、「これからどうなっていくんだよ!」と、悲痛な叫びをあげている。 俺の住んでいた地域は、被曝地からかなり離れてており、戦争の被害はあまりなかった。 だけど、やはり兵隊の人材不足で軍人の人たちが赤紙を持って、無理矢理若い男共を連行していくのを何度か見たことがある。 軍人に抵抗する者、諦めた目をした者、空元気で服従の意思を見せる者がいた。 俺も若い歳に入るが、軍隊からの勧誘は無かった。その理由は……。 「ただいま! 風吹(ふぶき)!」 俺は壊れかけのラジオを消し、玄関へ向かう。玄関には、堅いのいい男がいた。 「おかえりなさい。輝弘(あきひろ)様」 俺は、ボロボロの隊服に身を包んだ彼へ微笑みかけた。 彼は俺の身体へ抱きついた。彼の匂いに混じって、血の匂いや硝煙の匂いがする。 幾度も嗅いだ匂いだ。 「風吹……。ただいま」 輝弘様は、俺の身体を力強く抱きしめる。少しだけ息苦しくなり、背中を叩く。 「苦しいです。少し力を弱くしてください」 「ああ、すまんすまん」 輝弘様の腕の力が弱まった。戦争帰りで力加減を制御できていない様子だ。 「風吹」 「はい」 「日本……負けてしまった」 「……はい」 輝弘様の目には、悔しさを滲ませていた。今にも泣き出しそうな表情をしている。 俺は輝弘様の伸びた髪へ手を伸ばす。柔らかい髪質が手に伝わる。 「輝弘様たちの勇姿は無駄ではなかったと、俺は思っていますよ。貴方たちの努力は無駄ではなかった。現に俺の暮らしている町は、ほぼ無傷です。これも輝弘様の努力の賜物ですよ」
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