第一夜

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俺の慰みになるか分からない言葉に、輝弘様は再び俺の身体を抱きしめた。 「ありがとう……。風吹」 「輝弘様」 俺も輝弘様の背中へ両手を回した。 しばしの間、俺と輝弘様は静かに互いの温度を味わった。生きていると再確認できる、温かな温度を。 「輝弘様、これから昼食を作りますがーー何か食べたいものありますか?」 あのあと、俺と輝弘様は居間へと移動し、ちゃぶ台でのんびりお茶を飲んだ。 輝弘様は「そうだな……。素麺(そうめん)が食べたい」そう呟いた。 「素麺ですか? それでいいんですか?」 「ああ、素麺が食べたいな。細かく刻んだネギとワサビを入れたヤツ」 「わかりました。作ってきますね」 俺は立ちあがろうとした時、足がもつれてしまい、倒れそうになる寸前、輝弘様に支えられた。 「大丈夫か? あまり身体強くないんだから」 「ごめんなさい」 「謝るんでない。そうだ、素麺ならオレでも作れるから、風吹はここで休んでなさい」 「そんな! いけません! 先程戦場から帰ってきたばかりの輝弘様にそんな手間を……」 「大丈夫だ! いつまでも童のままじゃいけないだろ? それに、オレの方が年上だ。風吹は大人しく休んでなさい」 年上って……。年の差なんて四つしか違わないのに。 「風吹」 「なんでしょうか?」 「オレが留守の間、家を守ってくれてありがとう」 「改まってどうしたんですか?」 俺が困り顔で笑うと輝弘様も笑った。 「いや、なんでもない。素麺作りに行ってくるな」 「あ、ですから、俺がやりますってば!」 輝弘様が台所へ向かわれてしまうので、俺も輝弘様の背後を追いかけた。 結局、昼食作りは二人で作ることに落ち着き、素麺以外にもほうれん草の和物とサツマイモの煮物を作った。 「うん! このサツマイモの煮物美味いな!」 「良かった。喜んで頂けて嬉しいです」
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