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「良かったぁ」
風吹さんは安心した声を漏らした。
「さ、行こうか」
オレは風吹さんへ手を差し述べた。
「はい」
風吹さんはオレの手に手を重ねた。ぬくい体温が伝わる。オレは風吹さんの手を握り、祭り会場へとのんびりと向かった。
祭り会場は街の人たちで賑わっていた。そこらかしらで出店が並び、客呼びの声が飛び散っている。
「わぁ!」
風吹さんの歓喜の声が耳に入った。隣を見ると、キラキラとした目で祭りの風景を見つめていた。
「初めてか?」
「いえ、子供の時以来です」
「そっか……。なら、今日はめいいっぱい楽しまないとな!」
オレは風吹さんの手を引いて、立ち並ぶ出店を見て回る。あちこちから祭り特有の食べ物が混ざった香りが漂っていた。焼き鳥、焼きそば、わたあめの香りが客を誘う。
風吹さんへ気になる店があるなら教えてくれと伝えると、林檎飴屋を指差した。
「林檎飴でいいのか?」
「俺、林檎飴を食べながら店を回るのが好きでしたから。ダメですか?」
人の良心へ訴えてくるような眼差しに、オレの胸が射抜かれた。
「わかった。一緒に食べながら回ろうか」
「はい!」
祭りで人気のある林檎飴屋には、人集りができていた。ざっと見た感じ、十人以上並んでいる。主に女性と子供が多い。
「並んでますね」
「どうする? 別の店に行くか? オレは並んでもいいけど」
風吹さんはしばし考えたあと、「並びます。並んで待つのも祭りの醍醐味ですよね?」と、言って、最後尾に並んだ。
オレも風吹さんの隣に並んだ。
順番が来た。
「いらっしゃい! お、珍しいなー野郎二人が林檎飴なんて」
店主が意外そうにオレと風吹さんを見た。たしかに買いに来るのは、女性と子供が主だ。
オレも店主と同じ立場なら同じ反応をしていただろう。
「あの、林檎飴二つください」
「あいよ! 少し待ってな!」
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