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今年も満開の梅の花咲く、米村家の庭の縁側で千登勢と小春は並んで座る。
梅番茶をゆっくりすすりながら
「うまいなぁ」千登勢はしみじみ言う。
「そうでしょう?この梅干しね。千鳥が漬けたのよ」小春は嬉しそうに話す。
小春がずっとやって来た梅干し作りを去年から千鳥が引き受けるようになった、その第一号の梅干しを使った梅番茶だ。
「ほう、そうなんだな。小春さん直伝の梅干しは、きっとまた、誰かの難逃れをするのだろう」
「きっとそうですね」
「さて、小春さん、そろそろ行くかな」千登勢が声をかけると
小春も「はい、行きましょうか?」
米村家の庭も、車椅子で移動が楽に出来る、バリアフリーになった。
春翔が手がけたこの庭で
最近は千登勢も車椅子生活となり
小春が押しながらゆっくりと散歩するのが日課だった。
時折、手の届く範囲にハサミを入れる千登勢の背中を、微笑みながら見つめる小春。
千登勢は梅の木の下で言う。
「人生色々あったが、晩年をこうして幸せだと思えるのはこの梅のおかげなのだろうか?人生の節目に、私は小春さんの梅干しに助けられた気がするよ。難逃れと言うけれど難というか、苦労があったからこそ、今の幸せを感じられるし、苦労を乗り越えた事で幸せになれたとも言える。
梅干し作りと同じように、千鳥さん達若いもの達にもこの思いを伝えていけるといいんだがな」
小春も千登勢の肩に手をかけながら言った。
「きっと伝わりますよ。幸せになれるのよ。って私達を観てねって」
「ははは、そういう小春さんの前向きな姿勢が周りも幸せにするんだろ」
二人の笑い声は梅の花を微かに揺らした。
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