13 「見送った後に」

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13 「見送った後に」

「大した怪我でもないし、かえって恐縮です」 「何をおっしゃいますか。ご迷惑おかけして、これでは足りないくらいですよ」 「千鳥さんもありがとう」 コクンとうなずきながらも 名前を覚えてくれた事が何より嬉しくて、千鳥は耳が熱くなってくるのがわかった。 「お時間取らせて、ごめんなさいね」 「いえ、では失礼します」 木戸裏に停めた自転車にまたがり 出て行く姿を二人で見送った。 台所で、並んで洗い物をしていると 「千鳥ちゃん、怪我は?」 「うん、全然。大丈夫だったよ」 「そう、良かった」 「桜井さん、大丈夫だったかな?」 「そうね。うふふ」 思い出し笑いする小春。 「何を笑ってるの?」 「あのね。桜井くんの顔」 「うん、カッコイイよね」 「それがね、千登勢さんに似てたの」 「え?」 「おかしいでしょ?千登勢さんの話したばかりだからなんでしょうね。でも、似てたのよ」 「そ、そうなんだ。千登勢さんもイケメンなんだね」 「そうよ。素敵だったんだから」 ふふふと二人の笑い声と優しい空気が 台所に広がった。 なんだか千鳥まで桜井青年の瞳を思い出したら、ドキドキし始めた。 「小春さんが言ってた。『人を好きになるのって理屈では無い』ってこういう事?」 千鳥は小さくつぶやいた。
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