20 「2人の距離」

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結局、駿太郎とあの女子(米村)は 演劇部のスタッフ限定で入部することになった。 駿太郎はなんの因果か 野球部のつもりが 全く重ならない文化系の部活をすることになった。 「まぁ、野球部の奴らとすれ違うことも近くで活動する事も無いから 気持ちは楽だ」そう思った。 野球部への思いは月日の中で 薄れていき、少しづつ 演劇部でのスタッフ仕事も悪くないと思うようになっていった。 駿太郎は音響係になった。 野球を諦めなくてはいけなくなり 笑顔もなくなった彼を 母親はとても心配しているのをわかってはいた。 だから何とか部活をやるようになった彼の姿に、母親も喜んだ。 ある日、弁当箱を台所に持って行った時に母親は駿太郎に尋ねた。 「駿ちゃん、部活って何始めたの?」 「あ、演劇部」 「え、演劇?」 「そう」 「なんで?」 「なんかわかんないけど、誘われたから」 「へえ。役者とかやれるの?」 「ちげーよ。裏方。音響係!」 「あら、そうなの?そんなのに興味なかったのにね」 「野球バカだったのに、って意味?」 「違うわよ。でも血は争えないわね」 実は彼の父親が、コンサートやイベントの音響の仕事をしていた。 父親の仕事に全く興味を持っていなかったから、どんな事をやっているかは知らなかった。 「駿ちゃん、今度お父さんの仕事を見せてもらいに行ってみれば?」 「えー。やだよ」 「勉強になるじゃない」 「小学生の“働くお父さん調べ“かよ」 「いいじゃないのよ。お父さんも喜ぶんじゃない?」 確かに何の知識も無くて 先輩に教わった通りやってるだけだが プロの父の仕事にも少なからず興味が湧いてきた。 たかが高校の演劇部だけど、どうせやるなら役に立ちたいとも思った。 野球も個人プレーのようでやっぱり チームプレーも大切で 演劇も役者だけで無く裏方との チームプレーなんだなと思い始めた所だった。
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