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4 「小春コイバナ」
小春は一人娘で、事業の跡を継ぐために親の決めた婿養子と結婚した。
優しくて真面目で誠実だった夫だから、幸せではあった。
それでもやはり初恋は、忘れられないもの。
縁側に座る千鳥に、お茶を入れながらポツリポツリと小春の若かりし恋話を始めた。
「私がまだ娘時代の話よ」
小春のこの家も昔はもっと敷地も広く、庭も今の3倍はあったため、週に一度は必ず庭師が手入れをしていた。
庭師の万次郎は、腕は良いが酒癖が少々悪く、女房にも逃げられ一人息子の千登勢と二人暮らしだった。
千登勢も、幼い頃から庭仕事を手伝わされてほとんど友達と、遊ぶ事も無かった。
小春はいつも、自分と対して歳が違わない千登勢が、庭師として手伝う姿が大人に見えて憧れた。
いつも、休憩のお茶とお菓子を母親から言われて、二人に出すのが小春にとって密かな喜びになっていた。
その日は小春の二階の自室窓から、木を剪定している千登勢をそっと見ていた。
目の前のはなみずきの木は、毎年綺麗な花を咲かせる。
そのはなみずきの剪定をする千登勢の横顔。首筋の汗。筋張った腕。分厚い胸板。
「そうだ、後でお茶を出すときに手拭いを冷やしてお渡ししよう」
台所で氷水を張って、手拭いを用意している時、ドサっと音がした。
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