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6 「初めて触れる」
「その時の小春さん。ドキドキじゃないの?」千鳥は興味津々で身を乗り出している。
「そうねぇ。多分、顔は真っ赤になっていると思う。千登勢さんの体に初めて触れたんだもの」
自分の進路カードから、小春さんの恋バナを聞けるとは思わなかった千鳥だったが
「で、そのあとどうなったの?」
「その後はね……」
♦︎♦︎♦︎
しばらく休んでいた千登勢だったが、万次郎は片付けを終え戻り、程なく連れ帰った。
それから1週間後、小春がお稽古事から帰ると、万次郎親子が庭に来ていた。
千登勢はまだ足を引きずっている。
「まだ治っていないのにお仕事されるんですか?」つい心配で小春は声をかけた。
万次郎は「こんなのよくある事です。ほっといても治りますから。心配無用です」
千登勢は黙って仕事をしている。
流石に脚立に乗るような仕事は、万次郎がやっていたが、下草の仕事を黙々とする千登勢だった。
裏庭に千登勢が回ってきた時、小春は話しかけた。
「あの、本当は痛みあるのでは?これ、以前お医者様から頂いた湿布なんです。よかったら」
「お嬢さんすみません。ありがとうございます」
「お医者様には行かれないのですか?」
「親父はこのくらいの怪我では、医者になんて行くことないと」
「そうなんですか。湿布はたくさんあるので、またお持ちします」
今まで話をした事がなかった二人が、これをきっかけにお茶時間にも、言葉を交わすようになった。
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