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淡い紫色のカフェカーテンがかかったドアには【purple cloud】と書かれている。
千草はゆっくりとそのドアを開くと
音量を抑えた音楽が流れてきた。
「いらっしゃいませ」
愁の声が聞こえる。
「こんにちは」千草が挨拶すると
「あっ!先日は!」
愁もすぐ千草とわかった様子にホッとしながら
「本当に来ちゃいました!」と千草も答えた。
「ようこそお越しくださいました。先週は小春さんも寄ってくださいました」
「ええ、聞きました。良いお店だったわと、話してくれましたよ」
「ここ、良いでしょう?僕も元常連ですから」
「ふふふ。そう言う事ですね」
「いらっしゃいませ」奥から笹内も出てきた。
「露木くんのお知り合い?」
「ええ。先週来店された小春さんの娘さんですよ」
「おお、そうなんですね。ありがとうございます」
「米村千草と申します」
千草は名刺を渡しつつ
「ここの少し駅方向に行った所に、フランス人の利用者さんのご自宅がありまして」
「施設にお勤めなんですね」
笹内は名刺をみながら言う。
「あの先のおしゃれな洋館の?」
「あ、そうですそうです。ご存知ですか?」
「ローランさんご一家ですね。うちにもよく来てくださってくれるんですよ」
「利用者さんのお母様のクロエさんは気持ちが若くて素敵な方です。私がフランス語わからないので、一生懸命日本語でお話ししてくださるんです」
千草は共通の知り合いとわかり、嬉しかった。
「そうですよね。でも露木くんが来てからはクロエさんも娘のサラさんも、助かると言ってますよ」
笹内がそう言った。
「え?」千草が不思議そうな顔を露木に向けた。
笹内は「露木くんは5か国語話せるんですよ。脱サラ前は外資系の仕事をしていて世界中を渡り歩いていたんだよね」と打ち明けた。
「それはすごいですね!」千草は愁を見つめた。
「日常会話が少しですよ。僕の事はいいから。それよりも、さぁ米村さん、ご注文ください」
愁は照れながらメニューを差し出した時に、にっこりと微笑む千草の顔を見て、改めて小春の面影と親子共通の居心地のいい空気感も感じた。
千草もまた、初めて訪れた『purple cloud』だったが、二人の言葉や店の雰囲気がとても良く、小春が『あけぼの』の常連になった事にも頷けると思った。
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