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月一の『purple cloud』へ寄って、カウンターで食事をする千草。
笹内も愁も、千草とほぼ同年代。
年齢的には笹内が1番年上、次に千草、そして露木となる。それぞれ一歳違いなので、ほぼ同級生の集まりのような気のおけない3人になっていった。
ここ最近は、それぞれ笹内も露木も千草のことを小春さんと同じように「千草さん」と呼ぶ様になっていた。
また千草も笹内が言うように、露木を「愁くん」と呼び合う仲になっていった。
その日、それぞれの若い頃の夢の話になった。「笹内さんは音楽関係の仕事してたんでしょ?ミュージシャンが夢だった?」千草が聞いた。
「正解。ギター小僧だったんでね」
「毎日、なんだか知らないけどギター担いで登校する奴、僕の周りにもいましたね」愁も懐かしそうに言う。
「そ、別に部活やるわけでもなく、ただかっこいいかと思ってたから」と笹内も答える。
「女の子にモテたい男子が必ずやるやつね」
「そうそう。僕もまさにソレ」
3人は笑う。
「愁くんは?」
「あ?僕も一回はギター挑戦しましたけど」
「女の子にモテる為にね」とちゃちゃを入れる笹内。
「はい。でもダメ。下手すぎて」
「愁くんはそんなことしなくてもモテたんじゃない?その顔じゃ」またも笹内が冷やかす。
「いや僕、全然モテなかったー。悲しいくらい。僕はなりたい職業とかなかったけれど、世界中を旅したいのが夢だったかなあ?」
「じゃあ、会社勤めの頃、世界中飛び回ってたから夢叶えてだんだね」
「確かにそうだけど、世界中行っても仕事だからね。自由時間もそんなに無くて、楽しめなかったなぁ」
「じゃあ、脱サラしてからは旅行したの?」との千草の言葉に
「脱サラしてからはカフェの開業準備だったり、いざ開店してしまうと長期休みは意外に取れなくて」
「確かにな。店やっててたまに2、3日休むとお客さんにも迷惑かかるのは目に見えているしね」笹内が頷く。
「常連さんとなると、あてにして来てるものね」千草も頷く。
「お客さんを繋ぎ止めるにも、休めないんですよ。で、千草さんはどんな夢持ってました?」
愁が聞いた。
「私は、一人娘で婿をもらって家を継ぐって決まっていたから、子供の頃から夢を描くとか、あまりなかったんです」
「なるほどね」愁も笹内も黙ってしまったが、すかさず千草が言った。
「あ、でも私ね、今、夢が出来てワクワクしてるんです!」
「え?」2人の男達は千草を見つめた。
千草は例の、自宅で介護施設にする計画を、2人に打ち明けた。
キラキラした目で、一生懸命話す千鳥を、2人も笑顔で聞いていた。
千鳥自身も、生まれて初めて夢を持ちそれに向かえることに改めてこんなに嬉しいと気付かされた。
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