29 「それぞれのその後」

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➖ 凛 ➖ 凛は猛勉強の末、難関大学に合格した。人目を引く容姿は入学早々、校内の話題になった。 また、頼まれて木杉ガーデンの広告に出たことがきっかけで、雑誌の読者モデルの声もかかった。 最初は断ってきた凛であったが、学業に差し支え無い様にするからと説得され、少しだけならとモデルの仕事もする様になっていた。 大学に入ることが目的になっていたせいもあり、その先の夢も具体的には無く、闇雲に色々な資格を取る日々。 「何のためにやってんだか。暇つぶしみたいなもんだよね」 凛は自分でも思った。 資格の勉強をしていれば外野の煩わしい声も聞かずに済む、下手にショッピングなどで街歩きしていても声が掛かるし、それをかわしてカフェでお茶しても知らない人が声をかけてくる。でもそんな時に勉強していれば流石に声をかけてくる人もいないのだ。 モデルの仕事も適当にやっている感じだ。 いつもモデルをしている雑誌の主催で、企画されるライブイベントがあり、そのMCをやってくれないかと、オファーがあった。 最近よく聴くバンドも出るし、ただの興味本位で引き受けてみた。 「どうせ、台本通りに読めば良いんだし、適当にやれば良いよね」 凛はそう思いながら現場に行った。 最近は「適当に」が口癖になっているみたいで、このままで良いのかと思い始めているのだった。 現場についてみると、たくさんの人がテキパキと準備をしている。 バンドも何組か出ていて、リハーサルも始まっていた。 コードを運ぶスタッフとぶつかってしまった凛に 「ちょっと!危ないから、向こう行って」とその人に怒鳴られた。 現場は殺気立っている。 一通り出番が済んでMCブースから 降りた時に、キャップを被ったスタッフに見覚えがあった。 「さっき、私にぶつかったスタッフだ」凛はそばに行き、邪魔になってしまった事を謝ろうと思った。 「あ、あの。先程はすみませんでした」凛が頭を下げた後、顔を見たそのスタッフが言った。 「木杉!俺だよ!」 キャップを取ったスタッフを見て すぐには思い浮かばない凛。 「俺だよ、俺!宮下駿太郎!」 「え?え?高校の時一緒の?」 「そう!」 「演劇部の?」 「そう!」 「えー髪が長い!」 「当たり前だろ。何年経ってると思ってんだよ」 そこには髪を後ろで束ねて アッシュカラーの駿太郎が居た。 坊主頭の駿太郎とは、気がつくわけもない。 「宮下くん、ここで何やってんの?」 「何って、俺音響スタッフだよ」 「仕事してんの?」 「まだ専門学校出たばっかりだけどね。親父の会社の仕事手伝ってる」 「へぇ!そうなんだ」 「え?じゃ、私って気がついてたんでしょ?さっきぶつかったの」 「当たり前だろ、今や読モ界隈では有名じゃんか」 「なんで声かけてくれないの?」 「開場前は忙しんだよ。懐かしむ時間なんてないの」 「そりゃそうだけど」 「あ、また、そろそろ次のバンドの演奏準備だから、じゃ!」 駿太郎は駆け足で、スピーカーの間をすり抜けて行った。
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