12人が本棚に入れています
本棚に追加
イベントは無事終わり、雑誌の取材やテレビ局が、凛を取り囲んでのインタビューなど始まった。
機材を片付ける中に、あの駿太郎のキャップも見え隠れした。
しかし、その後に凛と駿太郎は顔を合わすこともなかった。
凛は駿太郎の連絡先が分からなかったが、イベントの企画書に音響の業者名が入っていたので、そこに連絡をしてみた。
「あの、そちらの会社で宮下駿太郎さんという方、いらっしゃいますか?」
「宮下駿太郎?あ、あいつかな?どちら様?」
「あ、木杉と申します」
「ちょっと待ってね」
『おーい宮下!お前、駿太郎って言うの?』『あ、俺です!』
電話の向こうの声が聞こえた。
『木杉さんって女性から電話!』
『え?』
慌てて机の角に太ももをぶつける駿太郎。
『お前、何動揺しての?』『女性からで慌ててんじゃねえよ』
『ち、違いますよ。痛え』
何人かの笑い声が聞こえた。
「はい。宮下です」
「あ、木杉です。凛です」
「はい、いつもお世話になっております。ただいま取り込み中なので
後ほどかけ直して頂けますか?」
「え?宮下くん。私、凛だよ」
よそよそしい言葉で話す駿太郎に戸惑っていた凛。
「では番号は090の⚪︎⚪︎……です。後15分ほどしたらお願いいたします」
すぐに電話は切られた。
凛は仕方なく15分後に言われた番号にかけ直した。
「もしもし」
「はい。宮下です」
「木杉です、凛です」
「わかってるよ」笑いながら答える駿太郎に
「ごめん。会社に電話しちゃって」
「別にいいけどさ。なんで知ってたの?」
「この前のイベント企画書。私も渡されていたから」
「あ、そういう事か」
「あの時あんまり話せなかったし、なんだか懐かしくて一度会いたいなあって思って」
「木杉さ、お前もう素人じゃないんだから、男に電話とかしてくるのまずくない?」
「あっ」
「まだ大学生だけど、芸能人寄りなわけだし。気をつけろよ」
「あぁ。私」
「まぁ、いいよ。会社の人には適当に言っておくから。さっきの電話は会社の人もそばにいるから、話し聞こえちゃうし」
「そうよね.そうよね」
「ハイスペックキャラなのに、意外だな」
「なんか、高校生の時に戻っちゃうのかな?」
「かもな。まぁ、俺の番号もわかったからいつでも連絡してきていいけどさ」
「うん。ありがとう」
「他に、演劇部の奴らとか会ったりしてんの?」
「ううん。私、友達居ないし」
「え?いつも取り巻き連れて楽しそうにしてたじゃん」
「あの時の友達は、私が受験勉強してる間に離れて行っちゃった。大学入ってからも、友達が出来なかったし」
「なんだそれ。大学でなんで友達出来なかったんだよ」
「入学してすぐ、男子学生の人気投票とかで選ばれちゃって、男子は声かけてくれるんだけど、女子は遠巻きで見るだけで、近寄ってくれなくて……」
「そうなんだ……。華々しく見えても色々あるな」
「だから、本当はモデルとかやりたく無かったけど、勉強以外学校にいても遊ぶ友達居ないし、資格取る勉強したり、モデル仕事したり適当に過ごしてたの」
「米村とは連絡取ってない?あいつ俺と同じ専門学校目指してたんだけど、入れなくて違う学校行ったんだよ。映像関係の学校出て、就職したみたいだよ。木杉が後押ししてくれたからって言ってた」
「ドリちゃん。頑張ってるんだ。すごいなあ」
「連絡先程知らないの?」
「スマホ水没させて、データ消えちゃったの。どうせ連絡してくる人も居ないしと思って、最低限の人としかやり取りしてない」
「意外にドジなんだな」
「うるさいなぁ。もう!」
「ははは。多分LINE変わってないはずだから、俺の教えとくから後で米村の教えるよ」
「ありがとう!連絡してみる!」
凛は、早速千鳥に連絡をしてみた。
久しぶりに会う約束ができた。
「ドリちゃん、久しぶり!」
「凛さんもお元気そうで、雑誌で何度か見たよ」
「ああ、そう」
「すごいよね」
「すごくないよ。楽しいわけじゃないし」
「え?でもすごく素敵な笑顔で写ってるよ」
「作り笑いっ言うやつ」
「そ、そうなの?」
「それよりさ、ドリちゃんはあれからどうしてたの?」
「ああ、C &Dは試験落ちちゃって、宮下くんとは違う学校に行って卒業した」
「残念だったね」
「うん.試験の日寝坊してさ。朝ごはんも食べずにギリギリで会場着いたけど、パニクってたせいか、わかりやすい問題も間違えて落ちたよ」
「え?じゃあ小春さんの梅干し食べなかったの?」
「うん、時間なかった」
「そっかぁ。私、受験日しっかり食べさせてもらって、お陰で合格できました。小春さんにお礼言っておいてね」
「凛さんもげん担いだの?」
「だっておじいちゃん直伝だもん」
「ふふそうね」
「宮下くんも食べたって言ってたよ、イベントの時買った分」
「そうなんだ。じゃあみんな小春さんのおかげだ!ふふふ」
「肝心な孫が食べないなんてねぇ、ふふふ」
二人で、久しぶりの語らいではあったが
楽しく過ごせた。
「ねえ、ドリちゃん」
「なに?」
「失恋組の約束まだ守ってる?」
「うん。て言うか好きな人できないし
恋してる暇ない」
「だよね。私も結局モデルだからとか
って寄ってくるやつは
ろくなやついないし、一生独身だったら老後はドリちゃん一緒に暮らそ!」
「ええ?そこまでは考えてないけど」
「まぁ.そっか。とにかく、時々私とあってご飯したりしてくれる?」
「もちろんだよ」
「ありがとうドリちゃん」
最初のコメントを投稿しよう!