29 「それぞれのその後」

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イベントは無事終わり、雑誌の取材やテレビ局が、凛を取り囲んでのインタビューなど始まった。 機材を片付ける中に、あの駿太郎のキャップも見え隠れした。 しかし、その後に凛と駿太郎は顔を合わすこともなかった。 凛は駿太郎の連絡先が分からなかったが、イベントの企画書に音響の業者名が入っていたので、そこに連絡をしてみた。 「あの、そちらの会社で宮下駿太郎さんという方、いらっしゃいますか?」 「宮下駿太郎?あ、あいつかな?どちら様?」 「あ、木杉と申します」 「ちょっと待ってね」 『おーい宮下!お前、駿太郎って言うの?』『あ、俺です!』 電話の向こうの声が聞こえた。 『木杉さんって女性から電話!』 『え?』 慌てて机の角に太ももをぶつける駿太郎。 『お前、何動揺しての?』『女性からで慌ててんじゃねえよ』 『ち、違いますよ。痛え』 何人かの笑い声が聞こえた。 「はい。宮下です」 「あ、木杉です。凛です」 「はい、いつもお世話になっております。ただいま取り込み中なので 後ほどかけ直して頂けますか?」 「え?宮下くん。私、凛だよ」 よそよそしい言葉で話す駿太郎に戸惑っていた凛。 「では番号は090の⚪︎⚪︎……です。後15分ほどしたらお願いいたします」 すぐに電話は切られた。 凛は仕方なく15分後に言われた番号にかけ直した。 「もしもし」 「はい。宮下です」 「木杉です、凛です」 「わかってるよ」笑いながら答える駿太郎に 「ごめん。会社に電話しちゃって」 「別にいいけどさ。なんで知ってたの?」 「この前のイベント企画書。私も渡されていたから」 「あ、そういう事か」 「あの時あんまり話せなかったし、なんだか懐かしくて一度会いたいなあって思って」 「木杉さ、お前もう素人じゃないんだから、男に電話とかしてくるのまずくない?」 「あっ」 「まだ大学生だけど、芸能人寄りなわけだし。気をつけろよ」 「あぁ。私」 「まぁ、いいよ。会社の人には適当に言っておくから。さっきの電話は会社の人もそばにいるから、話し聞こえちゃうし」 「そうよね.そうよね」 「ハイスペックキャラなのに、意外だな」 「なんか、高校生の時に戻っちゃうのかな?」 「かもな。まぁ、俺の番号もわかったからいつでも連絡してきていいけどさ」 「うん。ありがとう」 「他に、演劇部の奴らとか会ったりしてんの?」 「ううん。私、友達居ないし」 「え?いつも取り巻き連れて楽しそうにしてたじゃん」 「あの時の友達は、私が受験勉強してる間に離れて行っちゃった。大学入ってからも、友達が出来なかったし」 「なんだそれ。大学でなんで友達出来なかったんだよ」 「入学してすぐ、男子学生の人気投票とかで選ばれちゃって、男子は声かけてくれるんだけど、女子は遠巻きで見るだけで、近寄ってくれなくて……」 「そうなんだ……。華々しく見えても色々あるな」 「だから、本当はモデルとかやりたく無かったけど、勉強以外学校にいても遊ぶ友達居ないし、資格取る勉強したり、モデル仕事したり適当に過ごしてたの」 「米村とは連絡取ってない?あいつ俺と同じ専門学校目指してたんだけど、入れなくて違う学校行ったんだよ。映像関係の学校出て、就職したみたいだよ。木杉が後押ししてくれたからって言ってた」 「ドリちゃん。頑張ってるんだ。すごいなあ」 「連絡先程知らないの?」 「スマホ水没させて、データ消えちゃったの。どうせ連絡してくる人も居ないしと思って、最低限の人としかやり取りしてない」 「意外にドジなんだな」 「うるさいなぁ。もう!」 「ははは。多分LINE変わってないはずだから、俺の教えとくから後で米村の教えるよ」 「ありがとう!連絡してみる!」 凛は、早速千鳥に連絡をしてみた。 久しぶりに会う約束ができた。 「ドリちゃん、久しぶり!」 「凛さんもお元気そうで、雑誌で何度か見たよ」 「ああ、そう」 「すごいよね」 「すごくないよ。楽しいわけじゃないし」 「え?でもすごく素敵な笑顔で写ってるよ」 「作り笑いっ言うやつ」 「そ、そうなの?」 「それよりさ、ドリちゃんはあれからどうしてたの?」 「ああ、C &Dは試験落ちちゃって、宮下くんとは違う学校に行って卒業した」 「残念だったね」 「うん.試験の日寝坊してさ。朝ごはんも食べずにギリギリで会場着いたけど、パニクってたせいか、わかりやすい問題も間違えて落ちたよ」 「え?じゃあ小春さんの梅干し食べなかったの?」 「うん、時間なかった」  「そっかぁ。私、受験日しっかり食べさせてもらって、お陰で合格できました。小春さんにお礼言っておいてね」 「凛さんもげん担いだの?」 「だっておじいちゃん直伝だもん」 「ふふそうね」 「宮下くんも食べたって言ってたよ、イベントの時買った分」 「そうなんだ。じゃあみんな小春さんのおかげだ!ふふふ」 「肝心な孫が食べないなんてねぇ、ふふふ」 二人で、久しぶりの語らいではあったが 楽しく過ごせた。 「ねえ、ドリちゃん」 「なに?」 「失恋組の約束まだ守ってる?」 「うん。て言うか好きな人できないし 恋してる暇ない」 「だよね。私も結局モデルだからとか って寄ってくるやつは ろくなやついないし、一生独身だったら老後はドリちゃん一緒に暮らそ!」 「ええ?そこまでは考えてないけど」 「まぁ.そっか。とにかく、時々私とあってご飯したりしてくれる?」 「もちろんだよ」 「ありがとうドリちゃん」
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