9 「雨の匂い」

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9 「雨の匂い」

「その後、千登勢さんとはどうなったの?」千鳥は体を乗り出して聞く。 「その後少しして、万次郎さんが亡くなってね。噂では、千登勢さんはお母さんのうちに言ったらしいって。それ以来どこにいるかも分からないし、会うことも無かったわね」 「えーそうなんだ。そしてその後小春さんは、おじいちゃんと結婚したんだね」 「そうね。おじいちゃんも良い人だったし、私の事を大事にしてくれたしね。ありがたいと思ってるよ。お陰で千草を産んで、千鳥ちゃんとこうして一緒に居られるんだから」 「千登勢さんは、今どうしているのかなぁ?」 「どうしているのかしらね。千鳥ちゃんも、いつか素敵な人に出会えると良いね」 小春の目には、あの日2人で眺めたこの庭の景色と、千登勢の腕の中の温もりと雨の匂いは、まだ頭の片隅に残ってた。 その横顔を見つめる千鳥にとっても 祖母というより、1人の女性として憧れを感じた。
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