29 「それぞれのその後」

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千鳥を送って以来、野崎は仕事の休みごとに、カフェ「AKEBONO」へモーニングを食べにくる様になった。 「おはようございます」 「いらっしゃいませ。野崎くん、おはよう」 「今日も来ました」 「いつものだね」 「はい、いつもので」 奥から何やら女性達の声が聞こえる。 「あれ?今日はドリちゃんいるの?」 「ああ、今日は梅仕事なんだって」 「梅仕事?」 「梅干しの仕込みの事だね」 「ああ、なるほど」 「愁さん、爪楊枝ちょうだい」 千鳥が店のカウンターに顔を出した。 「あ、洋さん。おはようございます」 「おはよう、ドリちゃん」 「また来てるんですか?」 「なんだよ。お客さんに向かってー」 「飽きないのかな?ってふふふ」 「俺はここが気に入ってるし、モーニングの為休みの日は、いつも昼過ぎまで寝てたのが起きられる様になって、生活の良いリズムになってるの」 「それにわざと二駅手前から、歩いてくるんですよね」 愁も言う。 「そ、健康のためにもここが役立っている」 「はいはい、わかりました。爪楊枝、あった」 そのまま千鳥は奥に引っ込んだ。 「マスター、ここに住み込みなんでしょう?良いなぁ」 「半ば僕が強引にお願いしたんですけど、ここ本当に素敵で初代の社長さん、なかなか多趣味でね。この奥に娯楽室とミニシアターまであるんですよ」 「マジですか!」 「ビリヤード出来ます」 「うっそー。シアターって」 「もう、映写機は壊れてるんですけど、プロジェクターあればスクリーンと椅子はそのままです」 「ええええ!みせてもらえないですかね?その部屋」 「ちょうど小春さんも居るし、お願いしてみましょうか?」 「ええ、是非!」 その後、梅仕事の“梅の実を丁寧に乾拭きする作業”を野崎も手伝うからと、終わった後に部屋をいくつか見せてもらった。 野崎は感心していた。 「いやいや、良い家ですね。いやー本当に。良いなぁ良いなぁ」 どこを案内しても褒めちぎる野崎に 小春も千鳥も呆れるほどだった。 すると野崎が言い出した。 「あの、これダメ元でお聞きするんですが、マスターみたいに僕もここに住むってダメですか?昔の使用人の部屋いくつか残ってて物置になってますよね?」 「ええ?洋さんが?」 千鳥は柄にもない大声をあげた。 「小春さん、お願い出来ますか?」 野崎は頭を下げた。 それからまもなく、愁の隣の部屋に 野崎も引っ越してきた。 食事は大勢になり、愁と小春で作る様になった。愁が習う小春のお袋の味は カフェでも好評で、カフェも米村家も ずいぶんと賑やかになっていった。
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