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千鳥を送って以来、野崎は仕事の休みごとに、カフェ「AKEBONO」へモーニングを食べにくる様になった。
「おはようございます」
「いらっしゃいませ。野崎くん、おはよう」
「今日も来ました」
「いつものだね」
「はい、いつもので」
奥から何やら女性達の声が聞こえる。
「あれ?今日はドリちゃんいるの?」
「ああ、今日は梅仕事なんだって」
「梅仕事?」
「梅干しの仕込みの事だね」
「ああ、なるほど」
「愁さん、爪楊枝ちょうだい」
千鳥が店のカウンターに顔を出した。
「あ、洋さん。おはようございます」
「おはよう、ドリちゃん」
「また来てるんですか?」
「なんだよ。お客さんに向かってー」
「飽きないのかな?ってふふふ」
「俺はここが気に入ってるし、モーニングの為休みの日は、いつも昼過ぎまで寝てたのが起きられる様になって、生活の良いリズムになってるの」
「それにわざと二駅手前から、歩いてくるんですよね」
愁も言う。
「そ、健康のためにもここが役立っている」
「はいはい、わかりました。爪楊枝、あった」
そのまま千鳥は奥に引っ込んだ。
「マスター、ここに住み込みなんでしょう?良いなぁ」
「半ば僕が強引にお願いしたんですけど、ここ本当に素敵で初代の社長さん、なかなか多趣味でね。この奥に娯楽室とミニシアターまであるんですよ」
「マジですか!」
「ビリヤード出来ます」
「うっそー。シアターって」
「もう、映写機は壊れてるんですけど、プロジェクターあればスクリーンと椅子はそのままです」
「ええええ!みせてもらえないですかね?その部屋」
「ちょうど小春さんも居るし、お願いしてみましょうか?」
「ええ、是非!」
その後、梅仕事の“梅の実を丁寧に乾拭きする作業”を野崎も手伝うからと、終わった後に部屋をいくつか見せてもらった。
野崎は感心していた。
「いやいや、良い家ですね。いやー本当に。良いなぁ良いなぁ」
どこを案内しても褒めちぎる野崎に
小春も千鳥も呆れるほどだった。
すると野崎が言い出した。
「あの、これダメ元でお聞きするんですが、マスターみたいに僕もここに住むってダメですか?昔の使用人の部屋いくつか残ってて物置になってますよね?」
「ええ?洋さんが?」
千鳥は柄にもない大声をあげた。
「小春さん、お願い出来ますか?」
野崎は頭を下げた。
それからまもなく、愁の隣の部屋に
野崎も引っ越してきた。
食事は大勢になり、愁と小春で作る様になった。愁が習う小春のお袋の味は
カフェでも好評で、カフェも米村家も
ずいぶんと賑やかになっていった。
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