29 「それぞれのその後」

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➖春翔とマキ➖ 春翔は、社長の川原から紹介してもらったパンダ好きの湯浅をきっかけに、パンダ仲間も出来、新しい土地にすぐ馴染むことができた。 休みの日は、もっぱらパンダを見に行く春翔。 いつもは週末の動物園に行っていた春翔だが、その日は休日出勤の代わりの平日休みだった。 週末は来園者も多く賑やかだが、流石に平日は3分の1位だろうか。 パンダ舎の入り口で、たくさんの幼稚園児達と出くわした。 賑やかでカラフルな帽子を被った園児達の先に、カメラを構えた女性が居る。 いわゆるプロ志向の立派なカメラを構えた女性は、ワラワラと集まった子供たちに笑顔を向けながらも、被写体のパンダに向けてシャッターを押し続けた。 春翔は子供達の波に流されながら、その人の近くに来た時、カメラのレンズを変えようとしていた。そこに保育士の声に反応して、一斉に走り出した何人もの園児が、その女性にぶつかり体勢を崩した。 咄嗟に春翔は、長く伸びたカメラのレンズを掴んだ 「こら!走っちゃダメですよ!」 保育士の声が響く。 僕はカメラを掴むことは出来たが、持ち主の方は、尻餅をついてしまった。 「だ、大丈夫ですか?」 春翔は声をかけた。 「あ、ちょっと痛いですけど」 笑いながら、女性は言った。 「カメラ支えてくださってありがとうございます。コレ壊れる方がショックなので」 「あ、そ、そうですか」 春翔も笑っていいのか、どう返せばいいのか、きっとヘンテコな顔をしていただろう。 保育士さんが、謝りに走って来たが、女性は「お子さん達に、怪我が無くて良かった」と返事をしていた。 その後、立ち上がった女性は 「イタタタ。ももをぶつけたみたい。すみません、ちょっとこのままカメラをあそこのベンチまで、運んで頂いてもいいですか?」 女性は少し足を引きずるようにして ベンチまで歩いた。 春翔は、思った以上に重かったカメラをベンチにそっと置いて 「あの、ここで良いですか?」 と、声をかけた。 「はい、ありがとうございます」 ベンチに腰掛けて、ももを手でさすりながらもカメラに問題がないか 確認していた。 「すみません。お体を支えられなくて」 「あー、お気になさらず、コケた私がいけないし、初対面の女性に手は出しにくですよね」 「あ、いや、あの、プロのフォトグラファーですか?」 春翔が聞くと 「はい。コレでも一応。パンダの写真は趣味の一部ですけど、動物園のカレンダーにも使ってもらってます。あ、コレ名刺です」 女性が差し出した名刺を見て春翔は 声を出してしまった。 「え?五十嵐マキさん?」 「あ、はい。そうです。書いてある通り、本人です」 「あああ!僕ファンです!いつもインスタ見てます!パンダの写真たくさんあげてくれてますよね?」 「あ、見てくださっていたんだ。ありがとうございます」 「あ、僕も名刺…あ、仕事のカバンじゃないからないか。あ、ちょっと待ってください」 春翔はスマホを出してから画面をマキに見せた。 「僕、桜井春翔です。これ、僕のアカウントです」 パンダの写真と植物の写真が並んだ春翔のインスタアカウントを見せる。 「あ、見たことあるかも。パンダ写真も可愛いけど、植物のもなかなか良いなって思ったことあります」 お互いパンダ好きと知り、親しみを感じた春翔とマキだった。 「五十嵐さん、大丈夫ですか?歩けますか?」 「あ、大丈夫です。さっきはぶつけたばかりだったから痛みで、少し歩きにくかったけど、少し休んだら大丈夫だと思います。それより大事なカメラ守って頂き、本当にありがとうございました」 「プロの方のレンズなんてめちゃくちゃ高いんでしょう?」 「はい、めちゃくちゃ高いです。壊れたら泣いてたとも思います。足の痛みなんて比じゃありません!」 キッパリというマキの言葉につい 2人して吹いてしまった。 笑い合う2人。マキのカメラの写真を見せてもらいながら、しばらくパンダ談義に花を咲かせていた。
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