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2人でガーデンリバーの軽トラに乗り込み、道案内をしてもらいながら短いドライブになった。
マキの部屋の前で鉢植えをおろした春翔に
「桜井くん、もし良かったら部屋の中に設置、頼めたりする?」
「え?」
「だって重いし。桜井くんの人柄わかってるから、部屋に入れても大丈夫だよ」
笑いながらマキは言った。
だが、春翔にしてみれば、警戒されていない自分は、男と見てもらってない証拠なんだと思うと少し複雑だった。
無事部屋の中に運び込み、春翔は洗面台で手を洗っていると、コーヒーの香りがしてきた。
「桜井くん、コーヒー淹れたから飲んでかない?」
「ありがとうございます!いただきます」
2人の静かな時間が流れる。
遠くから聞こえる電車の音。
「桜井くん、あれからカメラはどう?」
「あ、少しずつ扱い覚えてます。この前も動物園行って、色々写してきました」
「そう」
「スマホにいくつか入れてきたので見ますか?」
「うん、見せて見せて」
向かい合わせに座っていたマキが
春翔の後ろに回って覗き込む。
顔が近くて少し焦る春翔だった。
「あ、これとか良いね」
マキが指差しスマホの画面にタッチする。少し慌てて春翔はスマホを落としてしまった。
「あっ」同時に2人で言って笑い合う。
「あのさ、桜井春翔っていい名前だよね。ほっこりする。五十嵐マキなんて
“嵐”だし、“マキー“ってキツイ音がするよね」
「そうですかね。ありがとうございます」
「インスタの名前も、キツイ感じだから変えた方がいいのかな?五十嵐ってさ、元夫の名字じゃない?実家戻った時、親に『旧姓に戻すと出戻りって世間に教えてるみたいで嫌』って言われちゃったからって
みんなには言ってるんだけど。
……ほんとはね。まだね。
私さ、離婚したのにさ。
もう戻れないのに、旧姓に戻せない自分がいて、未練がましいって思うけど
やっぱりあいつが好きな気持ちは
自分に嘘つけないって言うか……」
コーヒーカップを包み込むマキの手が小さく震える。
春翔は、心のざわめきを落ち着かせる様にコーヒーを飲み干す。
「五十嵐さん、僕これからマキさんって呼んで良いですか?」
「え?あ、うん。あれ、何でこんな話してるんだろ、私」
「マキさん、心の内を正直に話してくれるのは嬉しいんです。僕」
「桜井くんと居ると、何だか勝手に
口から出ちゃう。心のフィルターが外れちゃうんだよね」
「良いですよ。僕も正直に話してしまうと、マキさんの心の中の“五十嵐さん“を僕が取り除く事出来ませんか?」
「え?」
大きめの瞳がより一層大きくなるマキだった。
「僕、マキさんに惹かれ始めています。マキさんは僕を、そう言う対象とは思っていないのかもしれないけど」
「あ、あの。櫻井くんとは私五つも年上だよ」
「大丈夫。僕もっと何倍も年上の人に結構本気で恋してましたから」
「バツイチだし」
「今時バツが、1つや2つどうってことないです」
「子供も産めない体質みたいだし」
「僕の会社、一子相伝でも何でもないですよ。って言うか、そこまで想像してくれてるんですか?」
「あ、やだ!」
「いや嬉しいです。嬉しいです!」
「何言ってんだろ、私」
「マキさん、今日運び込んだグリーン。花言葉は『永遠の幸せ』って言うんです。これを無意識でも選んでくれた時、僕がその幸せを作れたらいいなって思いました」
「さ、桜井くんって、いつもこんな風に女性を口説いてるの?」
「初めてですよ!こんな風に心の想いを口にしていることに、僕自身が1番驚いてます」
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