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20 三人の距離
千鳥が部屋で宿題をしていると
「千鳥ちゃん、良いかしら?」と
小春が襖越しに声を掛けてきた。
「いいよ。何?小春さん」
「あのね、今度の金曜日の夜
何か用事ある?」
「え?別に無いけど」
「そう、実はね。春翔くんから
大学のゼミのイベントにお呼ばれしたの」
「春翔くんって桜井さん?」
「そう」
小春が桜井君ではなくて、いつの間にか【春翔くん】と呼んでいることに驚いたし、その名前を聞かされてドキリとしている千鳥だった。
「小春さん、デートに誘われたんだねえ。すごい」
「何言ってるのよ。おばあちゃん子だったそうだから、亡くなったおばあちゃん代わりなんじゃ無いの?」
「そんな情報まで知ってるの?」
「うふふ。あれから何度か『あけぼの』で会ったり、この前はLINE交換したんだけどね」
「ちょ、ちょっとそれ、なんか恋人同士みたいじゃない」
千鳥は尚更驚きつつ、小春が最近生き生きとしているのは
桜井くんのおかげと知った。
「それでね、千鳥ちゃんも一緒に行かない?夜だから足元危ないし、私も一人は不安だし」
「行くよ、行く行く。危ないし、何より桜井さんと会えるし……」
とつい、話してしまった千鳥。
「千鳥ちゃんも、春翔くんファン?」
「あ、うんうん、フ、ファン。
そう、推し。かっこいいもん」
「そうよねー。じゃあ一緒に行きましょう。春翔くんにもLINE送っておくわ」
とても70代の女性には聞こえないセリフ。そんな小春を羨ましく思う千鳥は、春翔と会える楽しみで
心がじんわり温かくなった。
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