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29 「それぞれのその後」
➖春翔➖
春翔はイベントを無事終わらせてまもなく、和歌山の「ガーデン・リバー」と言う造園会社に就職し移り住んだ。
木杉ガーデンで職人だった「川原」が生まれ故郷、和歌山に戻り「ガーデン・リバー」を起こした。春翔はいずれ木杉ガーデンを継ぎたいと思っていたし、千登勢も春月も無理強いはしていなかったが、望んではいた。
そこで、千登勢が一番頼りにしていた川原のところで、修行させてもらうことになった。
川原も、お世話になった千登勢からしっかり鍛えてもらった技術と造園への想いを、春翔に伝えたいと思っていた。
和歌山の会社では寮が用意されていたが、アドベンチャーワールドからほと近くて、春翔としては、慣れない土地だがパンダに頻繁に会えることは幸せだった。
ある日、皆で仕事現場へ向かう車中、助手席の春翔へ
「桜井くん、こっちの暮らしは慣れたかい?」社長が聞く。
「はい。一人暮らしには慣れてきたところです。家事とか料理以外は実家暮らしであんまりやってこなかったので、自炊とかあまり出来てませんが」
「そうかい。仕事も結構きついから、帰ったらバタンキューなんだろ?飯はコンビニ弁当か?」
「まぁそうですね」
「ははは、正直だな。休みの日とかどうしてるんだい?」
「あー。実は僕パンダが大好きで、休みは専ら、アドベンチャーワールドに通い詰めてます」
「あははは。それは近くていいな。男パンダ好きは珍しいと思っていたけど、櫻井くんもか。実は、おっさんだけどパンダにメロメロな俺の知り合い居るよ」
「男性では確かに、僕の周りにも少ないです」
「うん。パンダ好きのサークルやってる奴で、『湯浅』ってやつなんだけど。会のリーダーで奴のやってる店、『居酒屋 笹の葉』でよく仲間が集まってるらしいよ」
「あ、笹の葉!寮の割と近くにありますよね?ネーミングが気になってました」
「今度一緒に行ってみるかい?」
「はい!是非!」
後日、社長に橋渡しをしてもらって以来、春翔も夕飯を食べに行くなど『笹の葉』の常連になった。
知らない土地ではあったが、パンダのおかげですぐに知り合いも増え、休日はパンダ三昧。
そしてパンダの写真を千鳥に送ったりしていた。和歌山は南高梅で有名だが、時折小春さんの梅干しも、頼んで送ってもらっていた。ここでもいい人たちに巡り合い、楽しく過ごさせてもらっているのも、きっと小春さんの梅干しのおかげだと思っている春翔だった。
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