不幸な泥棒

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「ただいま」  いつも通りアパートに帰り自分の部屋に入ると、なんだか違和感があった。 「あれ? なんか、物の位置が違う……?」  私は嫌な予感がして、通帳と現金をしまっているたんすの引き出しを見た。 「うわ!? やっぱり現金が無くなってる……通帳は……無事だ」  引き出しをそっと閉めて私は警察に連絡するか迷った。  けれど、泥棒が戻ってきても困るので私は110に電話をかけた。 「はい、どうされましたか?」 「あの……泥棒が入ったようなんです」  しばらくして警察官が三人来た。  聞き取り調査をしたり現場の写真を撮ったり、私は警察官の仕事をボンヤリ見ながら書類をいくつか書いていた。 「それでは、戸締まりに気をつけてください」 「はい……」  泥棒は、私が閉め忘れていた窓から部屋に入ったようだという言う話だ。 「もう、大丈夫だよね……」  私は遺失物に書かなかったアレのことを思い出して、眠りについた。  外からは消防車のサイレンが聞こえていた。  翌日、会社に向かう途中に近所のぼろアパートに青いビニールシートがかかっていた。 「ああ、昨日の火事、こんなに近くだったんだ……」  私は野次馬の前に出ると、黒く焦げた柱の脇に見たことのある小さな石の人形があった。 「あれ? 昨日の……」 「おまわりさん! どうしたんですか?」 「いや、犯人が分かったので捕まえに来たのですが……もう、病院に運ばれたみたいで」 「え!?」  私は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。 「もしかして、この火事の部屋って」  警察官は私の問いかけに答えた。 「……容疑者の部屋ですね」 「そうですか」  私は、泥棒に同情した。  盗まれたのは現金と、小さな石像だったのだ。その小さな石像は、海外旅行のお土産として買ってきたのだけれど、家に置くようになってから身内に不幸が続いていた。  小さな石像は、ゴミに出しても戻されてしまうし外に捨てようとしてもしても拾われて私の元に戻ってきてしまっていた。  私がじっと小さな石像を見ていると、おまわりさんに聞かれた。 「何か、とられた物がありましたか?」 「いいえ、ありません」  泥棒の不運さに、助けられたのかも知れない。 「あ、時間!」  私は不幸な事故現場を後にして、駅に向かって駆けていった。  
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