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時間も忘れ雨に濡れ続ける。
一日の対局の疲れと、雨に濡れ続け冷えた身体が重く感じる。もう、この時は動く気力も全くなかった。
濡れた和装は、残酷にも重みを増し、今の匠の気持ちを表しているようだ。
意識が朦朧とする中、雨が止んだのか身体に雨粒が当たる感覚がしなくなった。不思議に思い薄っすらと目を開け確認した。
体力の限界なのか、目の前はモヤがかかったようにはっきり見えないが、人のシルエットが……。
誰かが匠に傘を差してくれていたのだ。
「大丈夫ですか?」
優しい声が聞こえてきた。返事をしたいがもう冷えきった身体は声すら出せない。匠の中では、可愛らしい声がなぜか天使を連想させた。
「救急車を呼びましょうか?」
その言葉に一瞬意識が戻った。
「やめてくれ……」何とか返事を返した。
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