彼が好きな

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彼が好きな

彼が好きだと聞いたアーティストの曲。 健気に聞き始めてから、もうすぐ一年が経つ。 これを聞けば近づけるなんて、 そんな淡い夢を抱いているわけではない。 今日も、通学途中の私の耳に、 似合いもしないパンクロックが流れ込む。 「彼氏がこのバンド好きらしいんだよね。 好きな人の好きなものは好きになるものだって よく聞くけどさ、私にはよく分かんないや。 興味ないものはないままだ。」 あいつがそう言って諦めたように笑ったから、 共通の趣味っていう種目なら勝てるかもしれないと、 姑息なことを思った。 だって私は、好きな人がカラオケで歌う十八番も、 行きつけの地元のラーメン屋も、 好きなお笑い芸人も好きだし、 好きな人に、好きなYouTuberも好きなアイドルも、小学校からやってきた大好きなスポーツも、 全部好きでいてもらえているから。 だから、私がこれを好きになれば… 「最近ハマってる曲あるから聞いてよ。」 ガラでもないアメリカのパンクロックバンドの 代表曲を流し始めたら、 目の前で大人しく聞いてくれた。 曲が終わる。 「へぇ、新鮮。他の曲も聞いてみるね。」 ほら、彼氏の勧めたバンドなんて忘れてる。 私が勧めるバンドには興味を持つ。 おんなじバンドなのに、どうして? ねぇ、どうしてだと思う? 気付きなよ、 あんたは、私の好きなもの全部、 興味持って好きになってるんだよ。 好きな人の好きなものは好きになるって、 だったらあんたの好きな人は私なんじゃないの? エゴで汚れた私の詰問は自己満足に留まる。 「そうしてそうして。 聞いてたらだんだんハマるからさ。」
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