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こうして、私は麻莉と智世と一緒に部屋の片付けをした。床に落ちていた服や教科書を元の場所へ戻し、散らかっていたゴミは袋に纏めていく。
やがて、一通り終えると私は2人と一緒に1階にある寮の食堂へ向かった。そこでは美蔓さんがいつものように大皿を運んでいた。私たちもバイキング形式で料理を盛っていき、夕食をとり始める。今日は韓国風だった。辛みがあるはずなのに、気分的にあまり感じられなかった。
「片付けたけど、なんか腑に落ちなかったね」
私の不満に気づいたように、麻莉が言った。
「うん。だって、ありえないんだもん」
「でも、事実でしょ。何も盗まれていないことは」
智世に言われて渋々頷く。彼女の言う通り、あの部屋からなくなったものはなにもなかった。むしろ、なくしたと思っていたリップが出てきたくらいだ。
「こういうケースもあるんじゃないの」
「というか今日はありがとう。片付けるの手伝ってくれて」
私が言うと、気にしないでと言うように2人は首を振る。ふと、麻莉の手元を見ると、メインで盛られていたのは、チーズタッカルビだった。
「麻莉って辛いの好きだっけ?」
「そうでもないんだけど、テレビでよく見るから一度食べてみたくって」
智世に尋ねられ、口元を隠しながら麻莉は答える。その額には汗が滲んでいた。私は原宿行ったときに食べ飽きたからなぁ。
「話戻すけど、結局部屋に入ったのは誰なんだろう」
私が言うと、智世が思い出したように話し始める。
「もしかしたら、『スキア様』の仕業かもしれない」
「スキア様? 誰それ」
謎の名称に私は首を傾げる。
「この高校にまれに現れるという神様?で、なくしたものを見つけてくれるらしいよ」
智世の話を聞きながら、私と麻莉が食事を続けた。麻莉にとってはよっぽど辛いのか、ついに汗をハンカチで拭う。話を聞くだけだと、良い神様なんだけど。
「なら、なんで部屋に入ってくるの?」
数時間前まで汚部屋になっていた自室を思い出し、眉をひそめながら問いかける。
「それはスキア様に聞いてよ。まぁ、なくしものを見つけてくれるっていうから感謝してる人がほとんどなんだって」
「『ほとんど』って誰よ? というかその噂どこで聞いたの」
「うーん、どこだっけ?」
智世にとぼけるように言われ、返す言葉はなかった。その、スキア様がリップを見つけてくれた、ということで終わらせていいんだろうか。
その後、夕飯を食べ終え自室に戻った。ふと、机に置いてあったリップをとる。前に原宿で買った韓国コスメで発色が自分好みなんだよなぁ。久しぶりつけたくなって、鏡前でつけようと蓋をとる。すると、リップそのものの表面が妙に綺麗だった。これ、新品だっけ。蓋を確認すると、一度だけ落としたときについた傷が残っている。
スキア様は空想なんかではなく実体がある。そう確信した私はスキア様について調べることにした。
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