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「答えを出す前に私の昔話をしてもいいかしら?」  彼女に尋ねられ、私と藪さんは了承する。美蔓さんが在校生だったときに現れたスキア様にヒントがあるのかも。まっすぐに見つめている中で彼女は話しを始める。 「これは私が3年生の頃ね。寮にいたんだけど、そこで泥棒が入ったっていう騒ぎがあったの。入られたのは、私の親友だった人」  枯れ葉が落ちていく木々を懐かしそうに見つめていた。 「その当時、私は人と話すのが苦手で仲が良いのはその人くらいだったの」  藪さんを見れば、思い出すように目線が上がっていた。仲が良いと聞いて、増実さんを思い浮かべていたのだろうか。私ならきっと・・・・・・。 「その日も一番先に来て、一緒に片付けをしてあげた。そしたら、何も盗まれてない上に、親友がなくしたと思っていた小型のゲーム機が出てきたの」  美蔓さんがこれくらい、と手で卵型を作る。おそらく昔流行ったものなのだろう。 「でも、親友は学校でなくしたから部屋にあるのはありえないし、部屋に侵入した人を捜したいって言い出して。だから、私焦っちゃって咄嗟に『スキア様』のせいって口走っちゃってね」  そう言って恥ずかしそうに笑う。だが、私には疑問が残った。 「待って下さい。どうして、そこで焦って口走る必要があったんですか」 「・・・・・・美蔓さんがスキア様だから。そうですよね?」  隣にいた藪さんの額には汗が滲み、それを見て向かいの彼女は頷いた。 「なら、なぜスキア様なんて嘘をついたんですか」  藪さんに問いかけられ、美蔓さんは悩むように唸る。 「正直に言えなかったからかもね。親友が学校に忘れていったのを自分が持ってて、しばらく使っていた、なんて」  それを聞き、自分の状況を振り返る。確かにあのリップは保湿用だから学校で使うことが多かった。それで置いていった日に拾った誰かが、少しだけ使ったのだろう。表面を切ったのは使ってしまった罪悪感と申し訳なさからなのか。私が振り返る一方、藪さんが質問をする。 「なんで、すぐに返さなかったんですか」 「そのゲーム当時、ものすごく流行ってて。でも私の実家は高校行かせるのでやっとなくらい貧乏でそういうゲームを買ったり遊びに行ったりするお金はあまりなかったの。だから」  美蔓さんは言い淀む。同じ高校に通っているのに、そんな格差があるんだ。 「つまり、隙を見て返したつもりだったが、その親友の方は私たちのように頑なに捜そうとした。部屋に入ったことがバレたくなくて、咄嗟に噂のせいにした」  藪さんは鋭く指摘し、彼女は話しを続ける。 「そのときは冷や汗が出て、しばらくは何していても止まらなかった。自分だとバレたくなかった私はなくしたものを見つけてくれるスキア様の噂を流したの」 「それが今僅かに残っている都市伝説のようなものなんですね。美蔓さんは無事に事なきを得た、と」  問いかけると、美蔓さんは首を振った。 「結局卒業式の日にはバレちゃったよ。スキア様の噂も元を辿れば私なんだから。問い詰められたときもすぐに白状したよ」 「親友だった人には、なんて言われたんですか?」  私は思わず尋ねてしまう。近い状況に立たされ、どう対応してよいか分からなくなってきていた。 「絶交だって。勝手に使ってたことよりも、貸してと素直に言ってもらえなくてイヤだって。私自身はただどう言ったら良かったか分からないだけだったんだけど・・・・・・お互い子どもだったよね」  それ以来、学校が違うこともあって連絡を取ることはなくなった、と美蔓さんは教えてくれた。自分に置き換えたときのことも想像したくない。隣で話を聞いていた藪さんの顔も沈む。 「物を返せないだけで部屋に勝手に入るなんて、バカバカしいと思う。でも、そうすることでしか物を返せない人もいるの。スキア様が彼女たちなりの解決方法だったの。ごめんなさいね」  そのことを言うときでさえ、いつも見る寮母さんらしい笑顔だった。謝罪することの無意味さ、それでも謝罪したい気持ちが伝わってくる。
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