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「これは、和尚さん、ご苦労様です」
「ひょっとして、息子さんの清さんですか?」
男は愛想笑いをして頭を軽く下げた。
「ええ、そうです」
「お久しぶりですな。清さんが高校生のとき以来だから、もう三十年近くになりますかね」
「どうぞ。お入りください」
仏間に案内された和尚は、手際よく袈裟を身に着けながら、清の黒のTシャツとジーンズ姿に違和感を覚えた。まあ、十三回忌ともなれば、家族しか来ない。まして、自分と母親しか出席しないのだから、本人は特に気にも留めなかったのだろう。
「清さんは、わざわざ十三回忌に来られたんですか?」
「ええ、ちょうど母親と同居の話をしたいと思っていましたので」
「そうですか。それは小夜さんにとって心強い話ですな」
小夜からはいつも、一人息子と仲が良くないので老後に頼る人間がいないという愚痴を聞かされてきたが、小夜も年を取って気が弱くなり、仲を修復したいのだろう。
「高校生のときより、少し太られましたかな?」
清は頭をかいた。
「私も立派な中年ですからね」
「まあ、私も人のことは言えません。六十代になってもメタボなので、家内から説教されっぱなしですよ」
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