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苦笑しながら、部屋のあちこちに目をやった。
「ところで、小夜さんは?」
「ええ、実は急に体調を崩しまして…」
「今寝ておられるんですかな?」
「ええ。それで先ほどからバタバタしていまして、和尚様のいらっしゃる時間を忘れておりました」
「そうですか。少し前にお見かけしたときには、お元気でしたが」
「母親も年ですから……」
「そうですな。それでは、始めさせていただきます」
和尚は、仏壇に向かい、座り直した。
「それでは、仏説阿弥陀経から。にょぜがもん……」
今の清には、少年時代の面影はない。三十年も経っていれば無理からぬことだ。
「しゃりほー、なんぽうせかい……」
それにしても、両親と仲が悪く、父親の葬式にさえ出席しなかった清が、なぜ母親との同居を考えるようになったんだろう。やはり、この荒井家の財産目当てだろうか。
「……かんぎしんじゅ、さらいにこー」
チーン、チーン。
「少し休憩いたしましょう。どうぞ、膝を崩してください」
「いやあ、助かります。ふだん正座をすることがないので……」
「ところで、清さんは今どこにお住まいで……」
「東京です。気ままな一人暮らしです」
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