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「和尚様、お焼香はまだですか?」
背中に清の熱い視線を感じて、経本を閉じ、香炉と香合が載った盆を回した。スマホをそっと下に置き、経本を開けて再びお経を唱えた。
「……ゆいかー、しんしー、こうそうせーつ」
チーン、チーン。
御りんを鳴らして、合掌。
「それでは失礼します」
帰ろうとする和尚を清が制した。
「和尚様。何を急いでおられます? まだお布施も差し上げておりませんが」
清は、隅に置かれていた、お布施の白封筒が載った盆を差し出した。
「はっはっは。これはお恥ずかしい。では、ありがたく頂戴します」
立ち上がろうとすると、再び清が止めた。
「和尚様。さっきから何かおかしいですね」
「え、どこが?」
「最初、お経の頁をめくる音がしませんでしたよ」
「……」
「それに、右肩が盛んに動いていましたよ。何をなさっていたんですか?」
「……」
和尚の顔から血の気が失せた。清は、尻ポケットから小型ナイフを取り出して、あぐらをかいた。
「ひえっ」
「和尚さん、どうやら気づいてしまったようだね。大人しくしてもらおうか」
「わかった。大人しくするから、それは引っこめてくれ」
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