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それは地面から生えていた。
それは茶色くて、細長くて、ドロドロして見える。
枯れ木、でもないし、細身のペットボトルでもない。
近づきたくはないが興味はある。
特になにもする気の起きない無気力で、昼過ぎの薄曇りの空模様を見上げてはため息をつく余裕があるくらいにはなんにもすることが無いのだから。
それは棒だった。そして、泥に塗れた棒でもあった。ほぼ泥と言っても過言ではないが、泥にしては直立すぎる。
よってこれは泥の棒だ。
RPGの世界であれば某有名なひ〇きの棒よりも攻撃力はなさそうだが、敵側もこれで殴られて泥まみれになるのは嫌だろう。
引き抜いてみようか。
今のご時世に沿って、携帯型除菌スプレーとウェットティッシュは持ち歩いている。泥まみれになろうと自分には関係ない。いや、関係ある。汚い。
このままにしておこうか。
いやでも、なんで他の人には気が付かないのだろう。昼過ぎの程よく人気の多い歩道の真ん中に泥の棒が生えているんだぞ。他の人には見えていない特殊な棒なのか?見える自分にはなにか特別な力が宿っているのか?
歩道の真ん中に生えているということは、その棒を見ている自分も歩道に突っ立っているわけで周りの人は自分を避けて歩いている。淋しい空模様と相まってなぜか自分まで淋しい気持ちになる。
ウェットティッシュを何枚か引き抜いて、そっと泥の棒に触れてみる。ティッシュ越しに柔らかいギュニュっとした感触が伝わる。地面に埋まっているわけでもなくそれはすんなりと地面を離れた。
今の今まで気が付いていなかったがこれが犬のアレだったらどうしようかと今更になって思ったがどうもアレとは違う。違ってよかった。
持っても、それはただの泥の棒だった。少し振ってみても、それは泥の棒だった。
なんでこんなものを拾ったのだろうかと、自分は本当に暇を持て余しただけなのだと考えていると急に頭の中に声が響いた。
「見えちゃったね。そして触っちゃったね。」
男とも女とも子どもとも大人とも取れない声だった。
次に自分に起こることと言えば、アレしかない。
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