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放課後の夕方だった。
中学生の取手行彦は友人の東雲謙吾と共に学校清掃を終え、帰宅の途につこうとしていた。
行彦は下駄箱から靴を放った。
その時、ひらりと一通のレター封書が靴の上に落ちた。
不審に思いながらも行彦は、中身を取り出すとファンシーなピンク色の便箋に書かれていた丸文字を読んだ。
行彦は驚愕し叫んだ。
謙吾は行彦の手にしているものを見て、驚く。
「え。それラブレター?」
謙吾は訊くと、行彦は手紙を読みながら震える声で言った。
「ずっと以前から、あなたの事が好きでした。倉本恵理」
「倉本さんと言ったら隣のクラスの陸上部の、あの娘だよ。可愛いって評判の」
謙吾に言われるまでもなく行彦は、恵理の可愛さに以前から心を寄せていただけに動揺していた。
しかし、何故自分にこんなものが。
という疑問を抱くよりも先に行彦は歓喜していた。
何しろ生まれて初めて女子から告白されたのだ。
喜びに打ち震えている行彦を見た謙吾は言った。
「で、どうするの?」
謙吾は友人の事ながら嬉しそうに訊く。
「OKに決まってるだろ。彼女居ない歴=年齢の俺だったけど。ついに彼女が」
行彦は甘酸っぱい男女交際への期待に胸躍らせた。
ふと謙吾は、行彦が手にしている封筒を見て気がつく。
青ざめる。
まるで、巨大ダムの亀裂を発見してしまったかのように顔色を変えた。
「行彦。それ」
「ん?」
行彦は、指し示された手元の封筒を見る。
佐京光希くんへ
と、宛名が書かれていた。
謙吾が行彦を見た時には、彼は失恋による涙を流していた。
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