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レキシントン公が、現世の光景であるとは到底思えぬのも、宜なるかな。
目に見え得るものと、肌身で感じ得るものとが、まるっきり相対してしまえば困惑をするのは避けられない。
例え、一国の王の名代であったとしても、下々の民草と何ら変わりはない。
それでも、混乱の中でにおいても喚き嘆き出さないあたりは、さすがに高貴な生まれ故にだろうか。
レキシントン公は深くうつむき、すっかりと縮こまっていた上体をどうにかして上げた。
本当は、――本心では一角と絆と、そのどちらかとでも目を合わせるのが、怖く恐ろしく思えて仕方がなかった。
決死の覚悟で上げた目は、絆の碧い双眸にまんまと捕まった。
絆の目はその碧い色も明るく鮮やかに、澄んだ光を宿し満ち満ちていた。
「摂政殿下、どうぞご安心下さいませ。此の地は、エスドレロンの平原は我が王により、すっかりと清められました」
朗らかそのままの高らかな声音で、絆は公へと『報告』をしてくる。
その誇らしさ、晴れがましさは、 けして己の功を誇るものではない。
ましてや、「公を揶揄してやろう」という妬心や邪心とは、全く以て係わりがなかった。
――ただただ、主たる一角の高徳さと高潔さとを喧伝する為のものだ。
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