60人が本棚に入れています
本棚に追加
公の言の葉へと返された絆の返答の短さは、『簡にして要を得る』というよりも『取り付く島もない』と言い表した方が相応しい。
公へと返事をするや否や、絆は左に立つ一角の首に両の腕を絡めた。
それだけでは到底、飽き足らないのだろうか――。
己の貌を、上体を一角の真白い体へと寸分の隙間なく接した。
一角の肌に押し付けていた貌を離し、絆は公を見た。
絆の頬は髪と全く同じ、薄紅色に染まっていた。
薄っすらと開いた唇は、より濃く深い紅色へと変じていた。
言の葉通り、まるで『紅を差した』様な鮮やかさだった。
花が、――絆の唇がほころび、言の葉をこぼした。
「摂政殿下においては、我が王が『戦場へと足を運ぶ』とは如何なることであるかを、よくよくお分かり頂けたかと」
「‼」
レキシントン公の脳裏に、『一角臨戦』へと至るまでに絆と交わしたやり取りの一部始終が、まざまざと蘇ってくる。
人臣の位は極めた公ではあったが、預言者としての命は託されていなかった。
故に、アエネアスとの開戦に際して一角の力を用いた結果がこの様になろうとは、露ほど思い寄らなかった。
もしも、己が預言者であったのならば、一角を戦場へと駆り出す暴挙にはけして打って出ない。
最初のコメントを投稿しよう!