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陽炎の如く濃く淡く揺らめく主の炎を映す絆の双眸は、さながら一対の碧い宝石の様だった。
輝き、煌めいている。
紅く色づく絆の唇の両の端を釣り上げているのは、明らかな笑みだった。
主の力の偉大さに、強大さにしている浴している光栄を悦んでいるのだ。
絆は主たる一角が望むのならば、何時まででも延々と、此の地に留まり続けることだろう――。
レキシントン公は、確と思う。
生あるものとは分け隔てられた、『聖別』の苛烈さそのままの焦土へと立ち尽くことも厭わない。
そう信じて、少しも疑わなかった。
一角の炎が、平原をそよがせる風に流されかき消されるや否や、絆の口元を華やかに飾り立てていた笑みも散り去った。
残されたのは、『恐れを知らぬもの』として創られた獣の繋ぎ役としての『絆』だった。
絆は右の掌を胸の真中へと押し当て、恭しく首を垂れた。
そして、控えめな低い声音で乞う。
「摂政殿下、どうか全軍帰還のご命令をお下しくださいませ」
「・・・・・・」
無論、うつむいた絆の貌を公が窺い知ることは叶わない。
しかし、万に一つでも公が無礼を承知の上で、絆の下ろされた薄紅色の髪の帳の内を覗き込んだのならば――。
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