60人が本棚に入れています
本棚に追加
ただの少しも笑っていない、絆を見出したことだろう。
一角の右に居る絆は、けして主と並び立っているのではない。
一角の穢れなき体は、覆わずにして純白の幕の如く絆を護っている。
絆は一角へとすっかり包み込まれているかの様に、全てを委ね明け渡しているも同じことだった。
絆の薄紅色の形の良い頭へと目を預けたままで、公は告げる。
「承知した」
この上なく短い公の返答とは真逆も真逆に、絆は実に長い間を設けた。
その間を用いて、ゆっくりと頭を貌を上げる。
公を真っ向正面から見つめた絆は、何かしらの言の葉を述べようとしなかった。
すなわち、何も言わなかった。
それから後は、トゥルニアへと還るまで唯の一言も、絆が言の葉を発することはなかった。
それはけして、「レキシントン公に対してだけ」ではない。
絆の様子を「何故に」かと訝しがり、恐れる近衛兵らに公は、
「コラリウム殿は大層お疲れのご様子だ」
と、説いた。
しかし、それは全くの嘘だった。
自軍を安心させる為の嘘、――方便に過ぎなかった。
レキシントン公だけは、絆が話さない理由を知っていた。
端的に言うのならば、話す必要が、用件がないからだ。
最初のコメントを投稿しよう!