9人が本棚に入れています
本棚に追加
第5話 私の力
牢獄に繋がれた私は先が真っ暗な現実に何とかならないかと考えた事はある。
しかし、ここを出たとして何処に行ったら良いのかもわからないし、生きていく術も見いだせない。
希望など抱いても無駄だと思い諦めていた。
絶望の中で雨水が滴り落ちるのをぼんやりと眺めていた時にお姉さんは現れた。
確かに突然の爆発が起こり命の危険はあったが、それは後の事だ。
そうなる事を予測していたとでもいうのだろうか?
それとも私は知らず知らずに助けを求めていたのだろうか?
お姉さんは私に「あんたが私を呼び出した」と言っていた。
「精霊を呼び出したからと言って私には何もできませんよね?」
「はぁ~何もわかってないのね…あんたは私の力を具現化することができるのよ」
具現化って何だろう。
お姉さんが炎の精霊だとしたら私が炎を出すことができるって事だろうか?
だとしたら私は何が具現化できるのだろう。
「お姉さんは何の精霊なの?」
「ああ…?私は山芋の精霊」
私はネバネバしたとろろとろろをまき散らす自分の姿を想像した。
しかし、それが何になるんだろう。
相手をネバネバさせて痒くさせるの?それともまき散らしたとろろをご飯に掛けて美味しく召し上がって貰うの?
これでオバサンをどうにかできる筈も無い。
「それって何の力にもなりませんよね!」
お姉さんは生意気なこと言いやがってと言いたげに私のこめかみをげんこつでグリグリした。
私は痛さの余り、のた打ち回りお姉さんに正拳突きを浴びせる。
空しくもその攻撃は届きはしなかった。リーチの長さが明らかに違った。
「この力の凄さも知らないくせにぃ~」
お姉さんは瞳をクシャクシャにさせながら悔しさを私にぶつけている。
「な、何が凄いって言うんですか⁈」
私の言葉にお姉さんは得意げな顔を見せると教師の様に語りだした。
「あんたは私の力によってとろろをまき散らす事が出来ます」
予想通りだった。何のひねりも無い。
「そしてまき散らしたとろろは美味しく食べる事も出来ます。それには滋養強壮の効果もあり活力を失った人間を瞬く間に回復することも可能です」
要するにポーションみたいなものだろうか?
「オバサンは希望を失い生きる活力を失っています。そんな人にあんたがまき散らしたとろろを食べて貰ったらどうなる事でしょう?」
要はオバサンにとろろを食べて貰って元気を出させるって事だろうか?
しかしとろろくらいでオバサンが元気を出すとはとても思えなかった。
オバサンが元気がないのは心に傷を負ったからだ。外傷や疲労からではない。
「そんなのでオバサンが元気になりますかね?」
「しのごの言わない!まずはあんたがとろろを出すの!」
「でも、やり方は?」
「イメージしたとろろを指先に集めるのよ!そして放出する!」
私はお姉さんに言われた通りネバネバのとろろをイメージした。
そして指先に向かってそれを集中させる。すると私の体が同時に光りだす。
茶色に光った私の姿はなんだか不気味だった。
体中の熱が指先に向かって流れ込んでいく。
そして指先からネバネバのとろろが一気に放出される。
『ベチャベチャベチャベチャ………………』
粘液を叩きつけた様な音が辺りに響き渡る。私の指先は地面に向いていた。
辺り一面がネバネバの白い液体で溢れていた。
液体にまみれてのた打ち回る動物や昆虫たちの姿はまさに地獄絵図だった。
最初のコメントを投稿しよう!