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第1話 あんた誰
物心ついた時から私は牢獄の中に囚われていた。
外れない鉄の首輪と鎖で自由を奪われていた。
外の世界がどんなものかなど知らなかった。
知っているのは壁と鉄柵で仕切られたこの小さな空間のみ。
ここを出たとしても何も知らない私には生きる術がない。
今日も暗く湿った檻の中で残飯の様な食事を与えられていた。
監視の男達は入れ替わりで私と会話することも無く食事を与えると戻っていく。
私は自分がなぜこんな目にあっているのか理由すらわからない。
こんな生き方が通常なのかとぼんやり思っていた。
牢獄の片隅で雨水がヒタヒタとリズムを刻んでこぼれ落ちる。
石畳にできた水たまりが青白くうっすらと光りだした。
最初はぼんやりだったその光は閃光の様に光だし辺りを包む。
そこから姿を現したのはギャルっぽいファッションに身を包んだ派手目な化粧のお姉さんだった。
お姉さんは周りを見渡すと石の壁をガツガツと蹴とばしている。
ハイヒールの踵がたまにコツンと音をたてていた。
少し怒りを含んだその様子には鬼気迫るものが滲み出ている。
その壁を破壊するかの様な勢いも感じられた。
しかし石の壁はお姉さんの健闘も空しく微動だにしなかった。
何を思ったのか今度は石畳の方を激しく蹴とばし始めた。
ハイヒールの踵がリズムよくコツンコツンとこだまする。
女の子でありながらガニ股なその格好に私は、はしたないと思っていた。
やはりお姉さんの健闘も空しく石畳も微動だにしない。
お姉さんは石畳を見つめながら何かを考え込んでいる。
そんな時、私を繋いだ鎖がチャリンと音を立てた。
暗がりに潜んだ私の姿にお姉さんはハッとする。
そして私の様子をまじまじと見つめると何をする訳でもなくじっと固まっていた。
特に驚いた様子も無くぼんやりと眺めている。
声もかけられず暫しの沈黙が流れていった。
「あんた誰?」
聞きたいのは寧ろ私の方だった。口と目を大きく広げてお姉さんを凝視していた。
その口からは言葉すらも出てこない。
「なにその格好⁈ウケるんですけどぉ~wwwwwwww」
お姉さんは私の姿を見てヘラヘラと笑った。私は無性に腹立たしくなった。
何も言わずにお姉さんを睨みつける。
しかしお姉さんはその場の空気を感じる事も出来ずに腹を抱えて笑っていた。
「奴隷?奴隷なの…超ウケるぅ~wwwwwwwwww」
私には奴隷の意味がわからなかった。私の様の人間の事を奴隷というのだろうか?
「奴隷って…?」
「う~ん…ペットみたいな感じ?」
お姉さんは私の質問を何故だか聞き返してきた。素っ頓狂な面持ちで私を見つめ返してくる。
私はお姉さんの不細工な様子にププっと吹き出してしまった。
「何、笑ってんのよ~」
お姉さんは口を尖らせて私を見つめる。しかしこれでお相子だと私は思っていた。
「貴女は誰ですか?」
「えっ?私…?」
そんな時、牢獄へ向かう通路から爆音と共に眩しいくらいの閃光が辺りを包み込んだ。
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