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結局金曜まで仮病を使って学校を休んだ。罪悪感よりも学校で二人にどんな顔をして会えばいいのか分からなかったし、もしかすると顔を見たり声を聞いたりした途端に泣き出さないとも限らない。わたしは元来、泣き虫なんだ。
「最近柊氏と何かありましたかな?」
漫画同好会の部室に顔を出すと、三枝成実が一人で部室の同人誌を読み漁っていた。
「どうして紅男と、なの?」
わたしは不満顔をして、成実の前に椅子を跨いで座る。
「桃川氏が不登校の間に所在を聞かれたので」
「そっか。他には誰か来なかった?」
「特には」
何気ない情報が、胸に小さな棘を突き刺していく。
「紅男とじゃないけど、色々あった」
「で、その色々について話す前に冬コミの話をしたいのですが……とても話す空気にないですね」
はああぁぁぁ。
と、わたしは思い切り息を吐き出して成実の両肩に手を置いた。
「ねえ成実氏、わたしとキスしよっか」
「それで桃川氏の気持ちが冬コミに集中してくれるなら。どぞ」
ただの冗談なのに成実は唇を尖らせて目を閉じる。
「どうしてキスする時って目を閉じるの?」
「そりゃ相手と睨み合ってするのは恐いでしょ」
「好きな相手なのに?」
「そう言われると考えてしまうな。それこそ、恐いからとか、なんかマナーだとかって言ってた方が分かりやすいか」
好きな相手なのに恐い、好きな相手だから恐い。
そんな風に恐れるくらいなら好きにならなければいいのに。好きにならなければ良かったのに。
「桃川氏?」
「ねえ……」
「キスする?」
「ううん。じゃなくて、好きになった相手がゲイだったら、どうしたらいいんだろう」
口に出すと、また泣きたくなる。
そんなわたしをまじまじと見つめ返して、成実は唸った。
「諦めるか、あるいは結局告白してみるしかないんじゃないかね?」
「やっぱそうか」
「だって分からないでしょ。相手が女である自分に興味を持たないかどうか、なんて。それともその彼にそう言われた?」
「わたしの話じゃないもん」
「じゃあ、赤の他人の話でいいから、言われた?」
そう。まだ何も言われていない。ただ、わたしが一人で自爆しただけだ。
「あーあ、成実氏が彼氏だったらよかったのに」
「三次元のレズは嫌だとか言ってたじゃないか」
「別にえっちしたい訳じゃなく、精神的な問題」
「プラトニックな百合本とか、いいかもね」
そう言ってノートにアイデアを書き始めた成実に苦笑しつつ、わたしはぼんやりと、クリスマスイブのことを考え始めていた。
どうせなんだから、もう一度自爆するのもいいかも知れない。
人生で一番悲しいイブに、してやればいいんだ。
(To be continued 「聖夜の理解者」に続く)
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