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第三章 「チョコミントの理解者」
マフラーをぐるぐるに巻いているのにアイスが食べたいと言い出したわたしに付き合って、駅前のサーティーズに一緒に立ち寄ってくれる。人生でそんな理解者を一人くらいは持っておくものだと思うのだけれど、
「おいまたチョコミントかよ。そんなんじゃシェアできない」
「いいでしょ。そもそもわたしが食べたいだけなんだから」
幼馴染の柊紅葉こと紅男は、肝心の味の好みが一致しなかった。
「やっぱりベリー系かチョコチップ」
「チョコまでいったらミントにしなさいよ」
「アイスくらいもっと甘いの食べさせてくれよ」
それでもちょっとだけわたしの二段目のチョコミントを舌先でぺろりとする。澄ましていれば可愛い顔をわざと歪ませて舌を出した紅男は、今日もお気に入りのフリルの装飾が目立つワンピースを着込んでいた。
彼女は、いや、彼は高校が休みの日だけ、こういう格好をする。小学校からの付き合いだからもう慣れたけれど、それでも普段の学生服姿が見慣れ過ぎていて、時々こうして一緒に出かけるとコスプレイヤーと歩いている気分になった。
「そういえば美亜ってさ、イブは何かするの?」
イブ、という響きにわたしは心臓が小さく驚く。紅男には黙っていたけれどある計画を立てていたからだ。
「まだ来月の話でしょ。何も考えてない」
「そっか」
小さな嘘だった。
紅男は特に気にした様子もなく、バリバリと手元のコーンを食べてしまい、大きく伸びをする。そんな二学期の期末テストが終わった開放感よりも、これから迎える幾つかのイベントのことでわたしは頭が一杯だった。
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