エピローグ

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「――彩」  甘えるような言い方で私を呼んだその声は、どうやら真後ろの方から聞こえてきていたみたいだった。懐かしさと恋しさと愛しさを一緒くたに(はら)んでいて、同時にとても大切な人を彷彿とさせるような聞こえ方をしていた。  後ろをゆっくり振り返ると、私と同い年くらいの少女が優しく微笑みかけながらそこに立っていた。私と同じような白い服を着ている。後ろで組んだ手の先には、さっきまで履いていたんだろうと思われるサンダルを指に引っ掛けていた。 「噓つき」  長い髪を揺らして私に近づいてきた彼女は、その一言だけを呟く。その瞬間、私は唐突に全てを理解した。 「あ……あぁ……!」  頭の内側が光よりさらに速い速度で次々と更新されていく。そんな私を目の前の彼女はそっと優しく抱きしめる。耳元で弾むような息の吐き方をして、甘い髪の匂いを漂わせて、心の底から嬉しそうに言った。 「やっと追いついた。これでもうずっと一緒だよ、彩」  そして、キスをした。お互いの指を絡み合わせてギュッと強く繋ぎ合う。 「瑞穂……私……」  私が紡ごうとした言葉を遮るようにまたキスをする瑞穂。空は、いつの間にか夕方になっていたらしかった。私は茜色の地平線を一瞥する。  そうか、私、あの日――。  ――死んじゃったんだ。  2019年 8月28日 若狭 彩                      永眠  2019年 11月24日 相沢 瑞穂
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