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 そう、相沢さんは軽く笑う。私だったら辱められても良いから必死で生きてやろうって思うのに、彼女はそれすら既に放棄している。死ぬことが怖いことだなんて少しも思っていない。そんな様子が見て取れた。 「そういえば、若狭(わかさ)さんはなんで病院に来てるの?」  今度は私が訊かれる番になった。彼女なりの気遣いなのか、それとも単純に気になっただけなのか、その辺りはよく分からない。 「私は、部活の練習で怪我したから、その治療」 「へ〜部活やってるんだ」 「一応、水泳」 「なるほど、水泳ね~」 「うん」  ようやくオレンジジュースを一口飲めた。柑橘系の爽やかな味が喉を通っていく。 「相沢さんはさ、死ぬまでにやりたいこととかないの?」  なんとなく気になって聞いた。 「あんまりないなぁ。どうせもうすぐ死ぬんだから、今さらあれもこれもって言い出してもしょうがないし。あ、でもせめて一人くらい友達作っとけば良かったとは思うな」 「そういえばいつも一人だったけど、やっぱり病気のことは知られたくなかった?」 「まあね。私が死んで哀しい思いをするのは家族だけで良いからって誰とも仲良くなろうとしなかったから。けど、今思えばちょっと失敗だったかも。お見舞いに来るの、お父さんとお母さん以外だと全然居なくて退屈してるんだよね。…………あ、そうだ!」
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