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現在
「え……?お、お前は……、由梨じゃないのか?」
驚愕に見開かれた瞳に映る私は、そのとおり由梨ではない。
一歩後ろに後ずさる男の身裸の胸は、少し汗でライトを反射していた。
それは、先ほどまでの2人の情事が激しかったことの証。
彼が私を必死に求め、そして愛した証。
今、その表情に後悔の色が隠すことすらなく現れていたとしても、私は平気だ。
だって、ようやく一つになれたのだ。
熱く激しく愛されたこの身体と、この想いと、この高揚感――。
もう誰にも奪われることはないくらい、深く私の心と身体に刻まれた。
私は心の底から幸せだ。
例えそれがガラスの上の幸せだったとしても、
「え、なんで?……」
震えるような声でもう一度問いかけた男の瞳には、絶望感がすでに浮かんでいる。
私に答えを求めるくせに、本当はその答えに気がついているのだ。
私は裸に白いワイシャツを羽織り、薄暗いライトの中ゆっくりと口角をあげ立つ。
「違うわ」
「君は……」
絶望に打ちのめされ歪んだ表情。
そんな苦痛に満ちた顔が愛おしく見える。
誰?と聞かないのは私が誰か本当はわかっているから、
そして私の名前を呼ばないのは、起きてしまった事実が怖いからなのだろう……。
「君は――――」
私は軽く息を吸い、
「藍梨よ、由梨の双子の妹の藍梨」
言葉にした瞬間、足元から広がった絶望の闇に彼が落ちていくのが見えた。
そして口角をあげた私は悪女でしかない。
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