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3.
人間、緊張しすぎると腹を壊すらしい。
藤野がうちのトイレに入ってる間、俺はキッチンで、二人分のカルピスを作っていた。
カラン、コロン
涼しい音がして、見た目は映えるけど。腹痛の女子に氷はダメかもと、箸でかき回しながらふと思ったとき。
「トイレ、ありがと……」
気まずそうに顔を伏せて、藤野が部屋に入ってきた。
「あ……うん」
こういうとき、何て言ったらいいんだろう。いや、たぶん、何も言われたくないよな。
俺はグラスを一つダイニングテーブルに置いて、自分は壁にもたれて立った。
「乳酸菌、いる?」
「……ありがと」
藤野が引いた椅子が、床をこする聴き慣れた音がして。それがすごく、不思議な感じがした。
人が来ることなんか想定してなかったから、いつも通りにプリントとかティッシュ箱が雑然と乗った、うちの茶色いテーブルで。
藤野が、真顔でカルピスを飲んでいる。
「吉友」
気がついたら、じっと見ちゃってた。もう遅いけど慌ててうつむいた俺に、藤野が低い声でぼそぼそ、聞いた。
「あのクリニックの医者、吉友のお父さん?」
「違うよ、母親が受付でパートしてるだけ」
「ふうん」
しばしの沈黙。
間がもたなくてちょびちょび飲んでたら、俺のグラスはすぐ氷だけになってしまった。
「何にも、聞いてないよ俺。患者のことは、家族にも話したらダメだからって」
「あたしが患者だってことは、聞いたんだ?」
「う……」
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